汗が十滴 ページ10
何か嫌な事があったのかもしれない。単純に体調が悪かったかもしれないし、死にそうなまでに青い空に嫌気がさして俯いていたのかもしれない。疲れていて、身体が休憩を求めていたのかもしれない。ただ人に嫌気がさして人気の無い所に逃げたかったのかもしれない。喧嘩をして頭を冷やしたかったのかもしれない。
理由なんか忘れたけど、俺は校舎の影になっている場所で、蹲っていた。
結構長くそこに居たが、身体が痛いと感じなかったし、気付けば目の前にグルッペンが立っていた。影で分かる。
だからと言ってグルッペンは俺に触れたり声を掛けたりはせず、ずっと目の前に立っているだけだった。身体も痛くならない俺は、ずっとそのまま蹲っていた。
カラスがやけに響く鳴き声で夕暮れ空を震わせた時、ずっと口を噤んでいたグルッペンが喋り出す。
「トントン、帰ろう。……今日が終わってしまう」
掛けられた言葉の内容は慰めでも心配でもなく、変に心地が良い空間が俺達を包んだ。
「……」
それでも俺は動かず喋らずの姿勢を続けた。
「トントン。立って、歩いて、進まなくちゃ、置いてかれてしまう」
誰に、とも聞けずに、俺はのろのろと首を動かしグルッペンのよく見えない顔に目を向けた。
「トントン。今日はトントンを待たない。けど、俺はトントンの隣で進むことが出来る。遅くてもいいんだ。進まなくちゃ、立ち止まっては、いけないんだ。……俺と一緒に帰ろう」
制服が汚れるのも気にせず、地面に膝を付いて、ゆっくり立ち上がる。
グルッペンは俺の荷物を持っていた。夕陽を背負い、立っている姿に、すっかり枯れてしまっていた声で彼に聞いた。
「なぁ、グルッペン。俺らは、可哀想なんかじゃ、ないよな」
「……当たり前だろう。トントン」
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作者名：サドちゃん | 作成日時：2018年5月18日 19時
