変わらない思いを抱く[wrwrd] (ページ1)

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汗が一滴ページ1

うだる夏だ。
例年温度が高くなっていくのにも関わらずよく俺は生きているなと呑気に思う。
そういえば聞いたことがある。
金魚が居る水槽の温度を少しずつ上げていくと、八十度近くになっても普通に泳いでいるらしい。
だったら地球温暖化に問題はないのではないかと思うこの頃だが、この暑さが鬱陶しく思うのは変わらない。

教室内の温度は馬鹿みたいに高く、肌が蒸れていく感触に嫌気がさす。向かい合って座っている友人の額に汗は伝っているが、普段とそう変わらない表情をしている。
紙の上で踊らしていたハイテクな棒を止めて、友人はふと思い付いたように口を開いた。

「そういえば、人の平均体温を知っているか」

俺の得意としている教科を知った上での質問だろう。俺は答えるために眼鏡のレンズから外れた場所に目線をやり、ぼやけた視界を見ながら考える。
「確か、36.89……とか、そこら辺じゃなかったっけ」
「案外高いと、思わなかったか」
「うーん。まぁそれも思ったけど、驚きはせんかったな」
コンクリートをもろともせず鳴いていた蝉の声が、急に止まったような気がした。
「何故だ？」
「……人間、生きるのに体温低いほうが驚きやろ」
「それもそうか」
「グルッペンは」
汗が、頬を滑る。

「話を聞いたとき、どう思ったん」
机に落ちかけた雫は、制服に染みるだけだった。
「俺は」
グルッペンの声は電子音で掻き消されてしまった。

「え？ごめん、なんて？」
「……いや、なんでもない。時間だ、帰ろう、トントン」
確かに、今の割れた電子音は下校の十分前を知らせるものだ。机の上に無造作に広げていた用具をだいぶ汚れてしまっている鞄に仕舞う。
「にしても、トントンは随分と暑がりだな。その脂肪のせいじゃないか？」
「やかましいわ」
軽くグルッペンの頭を叩く。一瞬触れた彼は、人らしい体温をしていた。

「ええもんやな」
グルッペンは、そう言った。