＊ ページ12
･
「A。」
名前を呼ぶ声で、意識が現実に引き戻された。
ここは聞こえないフリをしよう。
そう思って、また文字に視線を落とす。
だけど。
「おい。」
目の前に来たMondoによって、その行為は遮られてしまった。
「…ごめん、なに？」
まるで聞こえていなかったというフリを装って笑いかける。
「なんか嫌なことでもあったの」
じっと目を見つめられて、普段より幾分か柔らかい声で問いかけられる。
「なんで？」
「目合わないし、呼んでも返事しないし。いつもは俺が配信終わったらめっちゃ話しかけてくるのに、うるさいくらい。」
一言余計だけど。
流石にあからさますぎたかな。
でも、配信中のあの言葉を気にしてました、なんて言えない。
めんどくさいと思われたら嫌だし、Mondoにとっては些細なことだろうし。
「んーん。大したことじゃないよ」
「大したってなに」
「あ、そんなに嫌なことじゃないよって」
「ふーん。」
この話はここで終わりでいい。
もう話しかけないで、と願いながら下を向く。
「A。」
「なに…」
顔を上げたと同時に、温かい唇が触れる。
なに、なんで、急に。
状況が飲み込めていない私に向かって、Mondoは「俺、わかっちゃったかも。」なんて言う。
「なにが、」
「Aが落ち込んでる理由。チューの話でしょ」
「っ、」
「それでやきもち焼いたの？かわいいねぇ〜」
真っ赤になった私の顔を覗き込んで、ニヤニヤしているMondo。
さっきまで心配してくれてた癖に、急にからかわれて少し腹が立った。
「でも、私だってキスの一つや二つしたことあるけどね」
「…は？」
さっきまで余裕そうに笑っていたMondoの顔が、急に真顔になっていく。
「誰、それ。元カレ？俺以外許さないけど」
肩を押されて、ベッドに沈む。
ちょっとの仕返しのつもりで、軽い気持ちで言ったのに。
「ちょ、ちょっとMondo、昔のことだから…」
精一杯の力でMondoを遠ざけようとするも、びくともしない。
それどころか、もっと距離を詰めて私に覆いかぶさってくる。
「関係ない。俺が全部思い出せなくしてやる」
噛み付くようなキスが落とされた。
＿＿あぁ、仕返しなんてするもんじゃなかった。
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作者名：桜雪花 | 作成日時：2021年11月25日 23時
