募る後悔 ページ10
「お前の父は自らが妖であることも人間であることも認めていた。だからこそ強かった…自分を否定するな！認めることでお前は強くなるのだ」
いつの間にか目の前に迫っていた牛鬼に向けられた刀を何とか食い止めるリクオ。
「敵は牛鬼だけではない」
背後に現れた鞍馬天狗に目を見開く。
「その身で、ワシらの畏を受け止めてみろ…！！」
向かってくる二つの畏。
「う…うわああああああああ」
目が覚めたリクオの目に映ったのは、倒れ込む自分の隣に座る鴆の姿。
「鴆…くん？」
「じっとしてな」
頬には湿布、体には包帯が巻かれている。
「おめーの体ってすげーなぁ、なーんでこんな丈夫なんだよ？」
薬壺から薬を取り出しリクオの足に塗る。
「……たしかにそーいえば…」
「オレの出番がなくなっちまわー」
リクオはAと違って祖母のことまでは詳しくはわからないのだろう。
なぜ自分の体の傷の治りが早いのかはわからない。
竹壺くんから包帯を取り出す鴆。
「鴆くん…何でここに？」
「オレはお前と盃交わした義兄弟だろーが。鍛えるにしても体治さねーとやってけねーだろ？」
包帯を手に得意げに笑う鴆に顔を俯かせる。
「ゴメン…ボクが弱いせいで。鴆くんやみんなに迷惑かけて。Aのことも…」
妹のことを自分はまだ何も知らないことも、陰陽師であるゆらの兄や十三代目の方がその事情を知っているらしいこと。
そして、何やら会わない間に強くなったような妹の姿は、リクオにはとても眩しく思えた。
さらに、彼女はリクオでさえも知らなかった力を使用して氷麗の傷を癒してみせた。
あれがAが狙われる理由なのだということは、土蜘蛛の言葉からも理解できた。
だからこそ悔しかった。
修行して強くなったとしても、自分の力では大切なものを守ることができないのだと思い知らされるようで。
リクオにとって何よりも大切で、幸せになってほしいと願う愛しい妹。
その彼女を自分の手で傷つけてしまったのではないかと。
Aは言った。
自分は奴良組の弱みになると。
違う、自分にとって妹は誇りであり勇気だ。
彼女がいるからこそ強くなれた。強くなろうと思えた。
しかし、自分が強くなれないせいでその言葉はいつまで経っても届かぬまま。
すれ違い続ける兄妹。
その溝が埋まる日はきっとそう遠くはない。
しかし、まずは彼女をこの手に取り戻さなければ話は始まらないのだ。
考え込むリクオの頭は、鴆に容赦なく殴りつけられた。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年3月7日 1時
