超えるための業 ページ9
かつて捩眼山で対峙した時に見せられた幻覚とは違う、畏ー妖怪・牛鬼の真の力ー。
自分を鍛えようとしていると気づき刀を抜く。
「そうだ、それでいい。その姿のまま私の畏を撥ね返してみろ」
鋭い目で自分を見つめてくる牛鬼。
斬りかかってくる刀を何とか躱す。
「やらねばならんことはまず一つ、お前の畏を強くすることだ」
牛鬼の畏を纏った攻撃を受け止めたリクオだったが、勢いを殺しきれずに後ろの木に叩きつけられた。
「いいかリクオ、百鬼夜行とは"総大将の力"に比例するものだ。なぜ妖怪は百鬼を引き連れて戦うかわかるか…？」
じっと己を見据えてくる視線。
百鬼夜行は集団であり一つの大きな力。
そしてその百鬼を率いる者の力が大きければ大きい程ーその力も強くなる。
逆に大将の纏う畏が小さければ、それはただの烏合の衆で大きな力にはならない。
「つまりリクオ、お前が"強く"なれば決してくずれぬ強力な百鬼夜行を作るのだ！！」
ガッとリクオの首が掴まれる。
「そしてその百鬼夜行の強さは、おのれに還ってくる。お前が真の強者となり、誰からも信頼を得て固い絆で結ばれたとき"還ってくる大きな力"。それがもう一つお前が手に入れるべき"業"なのだ」
勢いよく地面に倒れ込むリクオ。
「羽衣狐は復活するたびに強くなる。だからお前は、祖父も父も超えねばならんのだ」
そう言って真っ直ぐに刀を向けてくる牛鬼。
「……こ、超えるって…。ぼくは…四分の三は人間だ…どーすればじーちゃんを超えられるの！？」
ハアハアと荒い息をしながら問いかけるリクオの服は既にボロボロだ。
「人間だから弱いという考えはすてろ。なぜなら、奴良組が最強をほこったのはお前の父の代だったからだ。人の血が半分流れていたにもかかわらずーだ」
聞かされた真実に目を見開く。
完全な妖怪である祖父ではなく、人間である祖母との間に生まれた半妖の父。
その父が奴良組を最強に……した……！？
「お前は以前妖である自分を否定していた。私は捩眼山でお前に人を捨てろと言った。それはお前に、妖の総大将としての覚悟を迫ったからだ」
バァンと勢いよく放たれた斬撃により吹っ飛ばされるリクオの体は背後の木にバキバキと突っ込んでいく。
「そして妖である自分を認めた時、お前は強くなった。次は人である自分を受け入れるのだ。人は時に、雪に折れない木々の弛みにも似たしなゆかな強さをもつ」
ズルズルと崩れる体でそれでも顔を顰めて牛鬼を見つめ返す。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年3月7日 1時
