目覚めた先で ページ49
「…どうなってやがる」
確かに高熱が出ていたはずと不思議に思いながら妹を見つめる妖怪達。
鴆がAの元にしゃがみ込み額に手を当てると、嘘のように熱が引いていた。
「熱が引いてやがる」
戸惑いの声を上げる側近達と遠野妖怪達。
「おい、A。おい、大丈夫か！おい…」
一体何があったのだと焦ったように妹の体を揺らすリクオ。
「……ん、な、に……」
激しく揺さぶられる体と耳に届く大きな声に迷惑そうな顔で目を開けるA。
怪我をしながらも半裸の逞しい筋肉のついた上半身に視界を埋め尽くされて困惑する。
え……なに、これ……。
それが妖怪姿の兄だと気づいてその顔を真っ赤にする。
「お、お兄ちゃん…？」
「…心配かけやがって」
ぽつりと呟かれたその声は、自信満々ではなくて弱々しい。
ああ、この人はー。
こんな時なのにも関わらず、自分を大切にしてくれる。
本当は昔からわかっていた。
素直になれず、意地を張ってしまっていただけ。
今更、その気持ちを変えることも、抱いてしまった劣等感がすぐに消えてなくなるわけでもないけれど。
ほんの少しだけ、素直になってもいいのなら、自分の甘えを許してくれるのならば。
自分を曝け出すことを喜んでくれるだろうか。
「…ごめんなさい」
自分を握りしめる腕に力が込められる。
「謝るんじゃねぇ。オレも…お前を危険にさらしちまった」
違う。これはお兄ちゃんのせいなんかじゃない。
私が子供だっただけ…。
「ごめんね、お兄ちゃん……みんなも。いつも私を守ってくれて……ありがとう」
恥ずかしくて顔を胸に埋める。
駆けつけた側近達も大袈裟なくらいの嬉しそうな顔をして目に涙を浮かべるほど。
そんな顔を見た遠野妖怪達は少し引いたような呆れたような顔をする。
ああ、この人はこんなにも強くなっていたんだな…。それにしても、何か言ってくれてもいいんじゃ…。
まだ治らない顔の熱はそのままに顔を上げると呆気に取られたような顔をする兄と目が合う。
「お、お兄ちゃん…？」
兄は片手を外して口元に当てそっぽを向く。
その耳が赤くなっているのが見えて、ああ、照れているのだなとわかる。
そんなリクオの表情を見て、揶揄うようにニヤニヤと笑う遠野勢と、共感する奴良組勢。
横目で見られたかと思うと、こちらを見下ろすリクオと至近距離で目が合う。
顎をぐいっと持ち上げられ、顔の距離が近づく。
鼻先が触れ合って、まるで、キスしてしまいそうな距離。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年3月7日 1時
