立ち去る土蜘蛛 ページ45
「さてと、鵺が生まれるまでオレはねる」
真っ二つになった顔を自身の糸と指で縫い付ける土蜘蛛。
そんな土蜘蛛を見てまだ死なないのかと騒つく奴良組。
「土蜘蛛、安倍晴明って陰陽師やろ！？人の見方や。あんたら京妖怪、何がしたいんや！」
臆することなく、そんな土蜘蛛に疑問を投げかけるゆら。
「人の味方ぁ？誰だおまえ。鵺は味方なんかになるか、使う側だからな」
そう言うとリクオ達に背を向ける。
顔だけはリクオの方を振り返りながら嬉しそうに、楽しそうに笑いかける。
「おう…お前ーおもしろかったぜ。じゃあのう、また闘ろうや」
そんな土蜘蛛にリクオも微かな微笑みを浮かべる。
「…そうだ、あの娘、大事にしろよ」
それは恐らく、今熱で倒れている彼女のことで。
土蜘蛛は、強いものにしか興味がないと思っていたが。
リクオですら知らなかったあの不思議な力をを持つAのことを、こちらの想像以上に気に入っていたようだ。
昔から、様々な妖怪に気に入られる妹だ。
本人の望みには反しているのだろうが、人や妖を惹きつける妹である。
リクオは胸中に浮かんだモヤモヤとした感情には蓋をし、不敵な笑みを浮かべて土蜘蛛を見返した。
「言われるまでもねぇよ」
リクオの返答に、土蜘蛛は満足したように笑うとバキバキと強い力で地面を蹴って飛び去っていった。
後に残された妖怪達は衝撃や煙、そして土埃に咳き込む。
土蜘蛛は寺の屋根に昇り京都の街を見渡す。
「やっぱ闘るってのは勝負じゃねぇな、喰らいあうのが楽しいんだ」
そう言ってガハガハと豪快に笑う。
土蜘蛛が去った後でAの方に意識を向けたリクオ。
忘れていたわけではないが、ようやく妹のことを考えられる余裕ができた。
「…鴆、Aの容体は」
そう言えば、鴆もリクオの元に駆けつけていたことを思い出し、今彼女の側には誰がいるのかという不安を抱く。
「…ああ、小妖怪達に任せてたが…って、おい、リクオ？」
スタスタと歩き出すリクオを慌てて追いかける。
そんなリクオと慌てて後を追いかける鴆を見て、側近や遠野妖怪達もその後を追う。
リクオの頭の中は妹の無事、体調、安全、その言葉で埋め尽くされていた。
そして、すぐに色々な者に好かれる妹へのヤキモチと僅かな焦り。
まったく、どうしてこうもー。
責めたいわけではないが複雑だ。
駆けつけたところに寝かされていた妹は、ただ穏やかな呼吸を繰り返していた。
何故か高い熱は治っていたが。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年3月7日 1時
