近づくその時 ページ41
「まぁ、あんたに会って確かめたかったんじゃが…よーうわかったわ。奴良組と京妖怪らとは、やはり相容れんようじゃ」
そう言って刀を仕舞う。
Aのことは心配だが、答えてくれないのであればこれ以上問いただしても意味がない。
ただ、彼女を守るだけ。
そして恐らく、孫であるリクオも奴良組の妖怪達もAを守るために全力を尽くしてくれる。
それはきっと、陰陽師も同じ。
かつて自分と共に戦った秀元のように、今はゆらがいる。
彼女は、自分が自覚している以上に愛されている。
そろそろ自覚してもらわなければ。
ぬらりひょんにとっては、大切な孫であり奴良組のお姫様であることに変わりはない。
彼女の代わりは、誰にも務まらないのだから。
「どうした？やらんのか？」
「悪いがワシはもう老いた。あんたを相手するのは、ちょいとばかりキツイ」
その背中に畏を発動しながらスッと目を細める。
「だが、二代目のケジメ…てめぇの野望ごとワシの若頭がとりにくるからな。覚悟しとくんじゃな。もちろん、Aのことも壊させはしねぇよ」
「…四百年前も今も、妖を夢中にさせるあの娘はやはりおもしろいのう。……生きてここから帰れると思うたか？ぬらりひょん」
「思うとるよ、羽衣狐」
不敵な笑みを浮かべて睨み合う二人だったが、その均衡を破ったのは突如体がドクンッと激しく脈打った羽衣狐の方。
「う…は…はっ、お、おぅ」
『母上…母上様…』
響く声にハッと息を呑むぬらりひょん。
それは、羽衣狐も同じ。
羽衣狐は産気づいていたのだ。
彼女の出産の時が近づいてきていた。
『母上様…早く…出たいです』
「おぉ…おぉ…おぉ…」
思わず感動の声をもらす。
『もっと…もっとほしいです。血肉が、血肉がほしいです。妖の上に人の上に立つのに、こんな姿のままでは出るに出られません』
「おぉ…おぉ…お…」
声を上げながら尾で自身を囲いながらその場に蹲る。
そんな羽衣狐の様に、ぬらりひょんは焦りを募らせる。
「まずいぞ…リクオ…」
その手の中の収めたはずの刀を再び構えながら。
急がなければ、このままでは羽衣狐の宿願が先に達成されてしまう。
何とかして、彼女が宿願を達成する前に討たなければ。
『はやく、はやく、早く…！！』
そんなぬらりひょんの焦りを助長するかのように、羽衣狐の中で鵺もまた羽衣狐をせっついていた。
早く産まれたいと、そのために、血肉を欲して。
その時は刻一刻と近づいてきていた。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年3月7日 1時
