兄妹の決意 ページ5
辺りを見回すと誰の姿も見えない。
そこで、唇を噛み締めながら青い顔で後ろに立つ妹に気がついた。
「…おい、下がってろ」
いつもなら素直に言うことを聞くはずの妹は、その言葉が聞こえなかったように雪女の元にしゃがみ込む。
彼女は自分が人間であることを誰よりも自覚しているはずだからだ。
リクオ達が戦いに行く場面では決して出てくることはなく、一歩引いた場所から見守ってくれる。
いつもとは違い、今回は出てきて欲しくはなかった。
「…おい」
「…大丈夫。氷麗のことは、私に任せて」
一度も合わない目。
けれど、その意思は固く一歩も引かないという強い気持ちを感じる。
今までとは何かが違う、そう感じはしたものの何が違うのかはっきりとはわからなかった。
「……守ってやれるかはわからねぇぞ」
「……うん」
そう言うとリクオは歯を食いしばって立ち上がる。
そんなリクオを見つめた後、Aは覚悟を決めるように深呼吸をすると雪女にそっと両手をかざした。
お願い……っ、上手くいって…！
Aの両手からは淡い光が輝き出す。
その光景に驚き目を見開く一同。
これ以上自分の百鬼夜行に手を出させるわけにはいかない。
「リクオ様…！」
「ちょっ…人間に戻ってない！？」
土蜘蛛に向かって行くリクオの姿は昼間の人間の姿で。
「封印だ。ここらは妖気が完全にはれた」
差し込む陽の光を見てそう話す竜二。
「え…そんなっ、奴良くん…人間の状態で土蜘蛛につっこむ気！？無茶や！！」
リクオの畏は土蜘蛛に通用しなかった。
妖怪の技は恐怖で決まる。土蜘蛛は一人で百鬼夜行を壊滅する男ーそんな男が畏れるはずがない。
「つっこむな！！リクオ！！」
止めるイタク。
リクオは自分に向かってくる土蜘蛛の指を一本斬り落とした。
血が吹き出す土蜘蛛を見て歓喜と驚きの声を上げる妖怪達。
「竜二…ゆら、見とけ。あれが祢々切丸や…」
斬られた土蜘蛛の指先から抜けていく妖気を見てそう声をかける十三代目。
祢々切丸ー妖怪だけを斬る陰陽師の刀。
一方、Aはその騒ぎを耳に入れながらも雪女に集中していた。
幼少期以来使ったことのない治癒能力。
一度にこんなに使ってしまうこと、自分の力を知られることに対する不安などはこの際無視してしまえばいい。
それよりも、大切な家族が目の前で傷つけられることに対する恐怖の方が大きかった。
また、お父さんみたいに目の前で失くすの……？
体が熱い。
耳鳴りがしてきた。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年3月7日 1時
