倒れる土蜘蛛 ページ39
「必ず斬る！」
「こっちもイクゼ、真剣勝負だ」
凄まじい勢いで向かって来る土蜘蛛に、リクオは遠野でイタクと交わした会話を思い出す。
イタクを初めとした遠野妖怪達の強さに味方になって欲しいと告げた。
しかし、イタクはそれを否定した。
遠野は傭兵集団であり、「弱い大将」について痛い目をついた奴が何人もいる。
だからリクオがどんな妖怪であってもお前にはつかないと。
強くならなくちゃ認めねぇーそう言っていたイタクが、自分に今鬼纏わせてくれている。
それがどういうことか。その意味を。
土蜘蛛の張り手を躱すと、鬼纏ー襲色紫苑の鎌を繰り出す。
その勢いで、二人の鬼纏が解かれ地面に転がる。
「イタク…」
「土蜘蛛は…？」
荒い呼吸をしながら無事かと問いかけたリクオに対し、イタクは前を見つめたまま視線を逸らさない。
顔を上げた二人の視線の先には、ただそこに立つ土蜘蛛。
「きいて…ないのかよ」
唖然として呟くと、土蜘蛛は笑いながら自らが張った糸を掴む。
「フハッ、そうよ。それだよ。よけたりしちゃーもったいねぇ」
ブチブチと千切れていく糸。
「めったに味わえねぇからなぁ、こーいううめぇもんはよ」
次の瞬間、土蜘蛛の体が真っ二つに斬り裂かれ体の半分から血飛沫が上がる。
そのまま膝をつく土蜘蛛に驚く妖怪達。
リクオとイタクも目を丸くしたまま顔を見合わせる。
「……」
「やったのか…？」
二人の顔には驚きと困惑が現れていた。
激しい音と声は、弐條城の中にいた羽衣狐の耳にも届いていた。
彼女の周囲には、生き肝を吸われて生気を失った沢山の人間達。
「…さわがしいな、どうした？」
「…見てまいります」
駆け出そうとした狂骨の足を止めたのは、ジャリと階段をゆっくりと歩いて来る足音と声。
「それにはおよばんよ。土蜘蛛がまっぷたつになったんじゃ」
「何奴！！」
髑髏を構え、出てきた蛇を叩っ斬る。
「ワシの…孫によっての。久しぶりじゃのう、羽衣狐」
笠を取った先には、懐かしく、また憎らしい顔。
「…！！貴様は」
「そうじゃ、四百年前、おぬしを…斬った男じゃ」
それは、四百年前と同じ襟巻きを巻いた若々しい男。
決して忘れることのできない。
「ヤクザ者…ぬらりひょん！」
羽衣狐にとって、決して忘れることのできない憎らしい相手。
四百年前、陰陽師と結託して自分の悲願を邪魔した男。
そして、四百年経った今も尚ー己の前に立ちはだかる。
まさに宿敵と言える相手。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年3月7日 1時
