雪女の勘違い ページ37
イタクは鎌を抜くと、ヒョイと地面に降り立つ。
「リクオ、オレたちも土蜘蛛に恨みがある。お前が望まねぇなら、オレたち遠野が土蜘蛛を倒す！！」
イタクの目にははっきりとした怒りの感情が宿っていた。
「……バラバラに戦ったって土蜘蛛は倒せねぇぜ」
「何？」
リクオと行った鬼纏の感覚がまだ体に残っている雪女は、畏を大量に放って疲れているにも関わらずリクオの役に立ちたいという一心で声をかける。
「リクオ様！！私ともう一度…あの…あのっ」
そんな雪女を見つめるリクオ。
「そうだリクオ…倒すなら早い方がいい。いくら遠野が強ぇっつっても」
鴆の視線の先には、土蜘蛛と対峙している淡島と雨造の姿。
モタモタしていては、またやられかねない。
「行きましょうリクオ様！！"鬼纏"…お願いします！！」
「何？鬼纏？何かあんの？」
雪女の必死の呼びかけに反応して振り返る淡島。
「あの土蜘蛛の腕を破壊した"業"だ」
鴆の説明に、淡島はあれをリクオがやったのかと驚きの声を上げる。
「…自分の畏を解放してリクオにあずけるんだ。信頼関係がなけりゃ無理だがそーすりゃ何倍もの力が得られる」
「よし！！じゃあオレがやってやるよ！！オレリクオ好きだから大丈夫だな」
鴆の説明を聞いてズイッとリクオの目の前まで距離を詰める。
「……！？へえ！？」
そんな淡島の言葉にいち早く反応したのは雪女である。
「それ…おめーが修行で得た業だろ。どんなものか見せてくれよ」
「おい…淡島本気か」
混乱する雪女と雨造に、淡島は朗らかに笑って言い放つ。
「おうよ！！ったりめーよ。よしリクオ、オレをまとえ！！」
恐らく、言葉の意味を深く理解しているわけではない。
「無理です！！"鬼纏"は私とリクオ様だけができる業で…」
そして、そんな言葉を耳にして恋する乙女が黙っていられるはずもなく。
反対の声を上げる雪女の声は、鴆のリクオを気遣う声に遮られた。
「大丈夫か…リクオ、"鬼纏"は何度も出せんのか？オレはきつかったぞ」
「そりゃあお前が体力ないだけだろ、気にすんな」
自分だけではない、と知ってショックを受ける。
この場にAがいれば、きっと雪女の繊細な乙女心と勘違いに気づいて慰めるか優しい言葉をかけてくれただろう。
しかし、彼女は今高熱で気を失っている。
「だがオレは淡島の畏を見てねぇ。どーなるか想像できねぇのにやれねぇな」
そして、リクオ達がそれに気づくはずもない。
「つらら！！やるぞ！！」
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年3月7日 1時
