守りたい ページ32
「待ってたぜー？手酌で五十斗飲みほす間もずっとなぁ」
お酒をぐびぐび飲みながら足を大きく開いて立つ土蜘蛛に、リクオはバッと雪女を庇うように腕を広げ前に立つ。
「つらら…下がってろ」
「えーとなんつったっけ…そう…ぬら…ぬら…奴良リクオだぁ」
プハァと口を離すと手で口元を拭う。
「鬼童丸にきいたよ。おめぇ"認識"ズラしてオレのこぶしよけてたんだっけ…？そんな奴ぁ…初めてだな」
土蜘蛛を睨みつけながらジャキッと刀を鞘から抜く。
「しかも四百年前に羽衣狐殺ったのはてめーのじーさんだって話じゃねぇか」
「…さっさとやろうぜ、京妖怪」
「…あわてんなよ。飲むかい？楽しんでけよ…オレもつぶすのが楽しみだ」
ニヤと笑うリクオに、土蜘蛛は手に持っていた酒の入った壺を手から離す。
リクオの頭上に落ちてきた壺がガシャアアンと激しい音を立てて割れ、地面に土蜘蛛の拳が振り下ろされる。
「紛ッ」
鏡花水月で躱すリクオに土蜘蛛は体を捻って拳を振り回す。
避けるリクオだったが、完全には避けることができずに肩の部分が裂けて肌が見える。
「よけるだけじゃあ勝てねぇぞ？」
ニイと笑う土蜘蛛にリクオも笑みを返す。
「お前もあわてんなよ土蜘蛛。今すぐに魅せてやるからよ」
そんなリクオの前に、体を震わせながら氷の剣を手に前に進み出た雪女。
その瞳に映るのは覚悟。
「おい…邪魔だ…すっこんでろよ。コラ、リクオォ、そいつどけろォ。つぶしちまってもいいのかい？」
指を差されるも雪女は引こうとしない。
恐怖で体は震えているのに。
「リ…リクオ様。お下がりください！私がお守りします！！」
「つらら。おい」
「いやです。退きません！！目の前にリクオ様がいるのに！！また守れない…」
それは紛れもない雪女の心からの叫び。
護衛として、側近として。
昔から、誰よりも大切に想ってきたが故に。
聞こえた悲痛な声にハッと目を見開くリクオ。
そして、高熱に浮かされ朦朧とした意識の中でAもまた、ズキズキと胸が痛むのを感じた。
彼女の想いが痛いほどに胸に届いて堪らない。
「もうあんな思いはしたく…ないんです！！」
振り返った彼女の目には涙。
「だから、お願いします…私も闘います！」
大きな瞳からこぼれ落ちる涙を見てガッと両肩を掴むリクオ。
「お願い！！リクオ様！！」
また下がれと言われたくないと必死に懇願する。
あれは…大丈夫、みたいだよ…氷麗。
兄の様子に薄らと微笑むA。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年3月7日 1時
