覚悟 ページ31
リクオを土蜘蛛の元に来させないために、土蜘蛛の元から逃げるために。
そして、今目の前にいるAを守るために、氷の武器を作り土蜘蛛に背後から近づく。
今だと土蜘蛛に攻撃しようとした雪女の動きを止めたのは土蜘蛛の一言。
「やめとけ。お前じゃ何も出来ねぇよ」
こちらを向いてすらいない土蜘蛛に、こいつの元からは逃げられないのだと痛感させられる。
足手まといになるくらいならいっそ…と覚悟した雪女だったが、見張りの妖怪達がやられる声が聞こえて驚いて振り返る。
ドガアッという激しい音と共に壊された扉の向こうに立っていたのは、待ち焦がれていた人。
「リクオ、様…？」
「フハップイ〜よおやく来やがったかい」
自分の決意は間に合わなかったのだと絶望し、ガクガクと震える雪女。
「ん？」
そこで、土蜘蛛は気がつく。
リクオの姿が鏡花水月を発動している時のように揺らいでいることに。
「なんで…何で来たんですかぁ！！」
自分の力では、もうリクオを守れないのにとその目に涙を浮かべて叫ぶ。
リクオはいつの間にか雪女の背後にいた。
「お前を助けるために来た、つらら」
涙を滲ませながら目を丸くして振り返る。
「すまねぇ…時間かかっちまったな」
リクオも雪女と視線を合わせる。
「ふん、ぬらりくらりと邪魔くせぇ。あとかたもなく…つぶしてやるぜ」
「よぉ土蜘蛛…今度こそてめーをたたっ斬る！」
凄まじい迫力で凄んでくる土蜘蛛と真正面から向かい合って睨みつける。
「……な、何……だ、れ……？」
朦朧とした意識の中でポツリと呟くA。
リクオが激しい音で扉を壊したことで、ほんの僅かにではあるがその意識が戻ったのだろう。
けれども高熱が出てしまっている以上、意識も思考もはっきりとはしない。
そんなAの小さな声に気づいたのはリクオと土蜘蛛のみ。
お互いにピクリと体を揺らす。
「…A……」
久しぶりに見た弱りきった妹の姿に驚く。
ここまで高い熱を出した彼女の姿を見るのは、いつぶりだろうか。
少なくとも、ここ二、三年では一度もなかった。
それ程、あの力は反動が大きいということなのだろうか。
「…お、兄…ちゃん……？」
弱々しいその声に気づいた鴆が慌ててAの元に駆け寄りその体に触れる。
そして、その体の余りの熱さに軽く目を見開いて顔を顰める。
これは…少しまずいかもしれない。
そして、そんな鴆の行動に対して、土蜘蛛は一切止める素振りを見せなかった。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年3月7日 1時
