自分の立場 ページ30
「リクオ様、ごめんなさい…守れなくて」
幼少期から見守って来たリクオの成長を思い出し涙を流す雪女だったが、自身を吊るしている糸が蜘蛛によって切られてしまったことで地面に落下する。
その衝撃で目が覚める。
「ハッ、な、何…？」
ジリジリと迫ってくる蜘蛛達に困惑を隠せない。
「やめて！！やめなさい！！」
息を吹きかけて凍らせようとするも、ズキッと傷が痛み動きを止めてしまう。
「ああぁあ何！？何なのぉ！？」
たちまち大量の蜘蛛達に囲まれてしまう。
しかし、現れた土蜘蛛が一匹の蜘蛛を掴み上げる。
「ちょっと目ェはなすとこれだ」
そして、グビグビと酒を呑む。
「勝手にさわんな。こいつは"エサ"なんだよ」
土蜘蛛の言葉により、ガサガサと直ぐに散っていく蜘蛛達。
土蜘蛛はドカッと腰を下ろすとグビグビと酒を呑む。
「まだかね、ずっと待ってんだがねえ。ああゆう"面白ぇ奴"に出会いてぇんだ。今度こそ完璧に破壊してやる…」
土蜘蛛の言葉に、雪女の驚きから目を丸くする。
「リクオ様……？生きて…いるの？」
そうして希望を抱く。
「リクオ様が…来るの……？」
自分はまだ、彼をこの手で守ることができるのだと。
「…そのためのエサだ。おとなしくしてろ……こいつもな」
自分がエサだと知り、その顔がほんの少し青ざめる。
自分のせいでリクオがここに来てしまう。
何としても側近としてリクオを守らなきゃと決意をかためる雪女だったが、「こいつも」という言葉にやっと意識が回る。
土蜘蛛の直ぐ隣に横になっているのは、見間違えるわけもない自分にとってリクオと同じくらいに大切な人。
奴良組のお姫様ーAである。
意識を失っているようだが、荒い呼吸を繰り返している。
それは昔からよく見てきた光景と類似していた。
熱を…出している？
それも、かなりの高熱だろう。
顔は赤く漏れ聞こえる吐息は微かで速い。
「A様！？」
まさか、彼女も土蜘蛛にやられたのだろうか。
彼女はただの人間であるはずなのに、目の前の土蜘蛛という妖は本当にどこまでも容赦がないのか。
「…こいつは、オレじゃねぇ。どちらかというと、お前だ」
「…え？どう…いう…」
一瞬チラッと向けられる視線に訳が分からずに戸惑う。
雪女はまだ理解していない。
自分の体の傷がほんの少しではあるが治癒していること。
そして、それをやったのが今自分の目の前で倒れている彼女の仕業であると。
守るべき相手に守られていたことを。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年3月7日 1時
