花開院家の希望 ページ28
「朝が来たな」
「……ん？そうだな…」
しょうけらと闘っていた青田坊と秋房は、いつの間にか晴れた空を見上げていた。
地面には、めり込んで動かなくなっているしょうけらの姿。
「虫妖怪どもは君のはり手一発で帰っていったようなものだ。すまない…礼を言うよ」
「うん…？ああ…」
死傷者を運ぶ花開院本家の陰陽師達の様子を見つめる秋房の表情は浮かない。
「この四百年で花開院家はずいぶん弱体化したようだ」
そう呟く憂いある表情の秋房を見つめる青田坊。
「ムリもない…羽衣狐が復活するまで四百年もの間、実質、戦いも何もなかったようなものだ。人間は…組織というものは…危機に直面して初めて現実に気付く…愚かだな…」
「…気付いてよかったじゃねぇか、あんたみたいな人がいりゃー組も大丈夫だろ。しったこっちゃないがな」
本来は敵同士である二人。
「ほら何だ…小さい娘も黒服着た二人組もいるしな…」
「竜二とマミルか…？」
かつて対峙した二人のことをそう言う青田坊に、秋房も思い当たる節があったのだろう。
「…すまないな。妖怪なのに気を使わせて」
そこへ、息を切らせて駆け込んで来たのは、小さい娘ゆらと十三代目、そして合流した奴良組の妖怪達だった。
彼らは、花開院家本家の惨状に目を丸くしている。
「秋房兄ちゃん！？これどーなってんねや！！」
「ゆら…」
視界に入ったのは腕を組んで立つ青田坊と、地面に座り込む秋房。
そして、座り込む秋房の隣に血だらけで地面に横になっている祖父である二十七代目の姿。
「おお…ゆらか…もっと近くに…」
その息は余りにも弱々しい。
「お…おじいちゃん！？」
青ざめた顔で側にしゃがんだゆらの手を血に濡れた手でガッと掴む。
「おぉゆら…」
「おじいちゃんっ…しっかりしぃや！！」
「ゆらは…『禹歩』はできたかな…」
もう、長くはないのだろう。
「そんなん…何年も前から朝飯前や！！」
目に涙を浮かべるゆらの髪をクシャッと撫でる。
「ゆらは…結晶だ。お前の中には花開院家の未来がつまっとる。老いた私の目にはまぶしい、ワシらの結晶なのだ」
「お…じいちゃ…何言って」
その目には、もう光は映っていない。
「ゆらはたくましい。ゆらを見ていると…いつも…前向きで…いっつも希望がわいてくる…もっと強くなりなさい。もっと…もっと…強くなって…ワシらの代わりに…人々を守るんだよ…」
「おじいちゃん…」
目に涙を浮かべたゆらの泣き声が響きわたる。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年3月7日 1時
