鏖地蔵の狙い ページ25
「牛鬼…あのボウズはどうした」
壊れた寺の外、階段の上で座る牛鬼に後ろから声をかけたのは鞍馬天狗。
「…一時休ませている。すぐに再開する」
後ろを振り返らずにそう答える。
「そうか。千年ぶりの出産は近いぞ…転生妖怪羽衣狐…最初の出産から約六百年で七度の転生。しかし九尾となったときに私の席はなかった。鏖地蔵がおった！」
振り返ると、鞍馬天狗の表情は険しいもので。
「奴は一部の妖怪の記憶をイジリ、ワシのいるべき立場に立っておる…妙な力を使いおって…」
その背後から滲み出るのは紛れもない怒りの感情。
「…その鏖地蔵という妖、羽衣狐もあやつっているのだろうか？」
「いや、それはないだろう。羽衣狐をあやつれるような妖はいない…何を考えているか知らんが、やや子の出産の時、自分が都合のいい地位につきたいのだろう」
「目的はわからずか」
少なくとも京妖怪達の、羽衣狐の敵ではないのだろうか。
「…しかし、この鞍馬天狗をコケにしたことを…必ず後悔させてやる。今度の出産だけは認めるわけにはいかん。絶対に阻止する！！」
その理由は違えども、奴良組である牛鬼と鞍馬天狗。
羽衣狐の出産を阻止したいという目的だけは見事に一致している。
「ああ…リクオなら必ずやそのための力を手に入れるだろう。強力に感謝する。もう少し待ってくれ…」
宙を見上げた後でそう言って鞍馬天狗に視線を向ける。
「…おや？牛鬼、最初の約束の時間は今…過ぎようとしているぞ？過ぎれば後は我々がやる… 祢々切丸は回収させてもらうぞ」
「何…」
鞍馬天狗から返ってきた容赦のない言葉と残酷な表情に、牛鬼は目を見開く。
その頃。
向かって来た天狗を鏡花水月で避けながら、刀を振りその天狗を寺の外に押し出した。
「鴆！！今だ！！」
逃すために勢いよく後ろを振り返って叫ぶも、鴆は険しい顔で全くその場から動こうとしない。
そして、リクオのことを睨みつけるだけ。
「どうした！？鴆！？逃げろよ」
「ざけんなリクオ…」
「鴆…？」
ペッと唾を吐きながらそれでも逃げようとしない鴆に疑問を抱く。
「テメェリクオ…オレを足手まといみてぇにあつかいやがってよ…」
「はあ！？してねーよそんなん！！」
「してんだろーが」
敵を前にしてそれでも睨み合う二人。
「いーから逃げろ！！」
「アン！？やなこった」
「おいコラ」
そうしてそのまま、いつかの船の上のように言い争いを始めてしまう。
それはまるで兄弟喧嘩である。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年3月7日 1時
