四百年間の間に ページ15
「黒、やばいんじゃね？首無の奴。このままほっとくとさ」
河童は黒田坊に後ろからそう声をかける。
「……そうだな。急ごう」
自身の笠に触れ目を細める黒田坊。
さっと歩いて行く黒田坊を見つめる十三代目。
奴良組にはどうやら大物っぽい妖怪もちらほらといるようだ。
自分が死んだ後で奴良組に入ったのだろうかと。
そして、疑問を抱く。
何故こんな奴らがリクオのような若い主についてるのか。
何か義理でもあるのではと。
奴良組とは、四百年後も変わらず自分に興味をひかせる存在だと。
その頃、相克寺では。
土蜘蛛に連れ去られた二人の姿があった。
雪女は天井から吊るされ、Aはその下に寝かされていた。
雪女から滴った血溜まりの下に集まる鼠達。
「物好きな男だ。生け贄なら羽衣狐様へ渡せ。しかも目当ての少女まで…油を売っている場合ではなかろう」
酒を飲みながら苦言を呈すのは鬼童丸。
その視線の先に映るのは奴良組のお姫様。
鬼童丸もかつて奴良組の本拠地付近まで出向いて脅しをかけた少女だ。
あそこまで脅しをかけたからこそ、彼女は京都には来ないだろうと思っていたのだが。
まさか土蜘蛛に居合わせ、こうして人質として捉えられているとは流石の鬼童丸も驚きだった。
怯えや恐怖心を全身に滲ませていた。
それにも関わらず、護衛の一人を守るためにその力を使ったと土蜘蛛から聞いた。
一体、彼女に何があったのだろうか。
何が、彼女をそうさせたのか。
奴良組は宿敵であり、彼女自身も鬼童丸にとっては羽衣狐の目的の一つでしかない。
生きようが死のうが、どうなろうと構わない。
気の毒な気もしないではないが、それまでの存在。
しかし、何故か興味をかき立てられるのだ。
「大きな楽しみができちまったものでね」
キセルから煙を吐き出しながらそう告げる土蜘蛛。
「楽しみだぁ…？楽しみなど…フン、"大望"があるだろう？我らが四百年前はたせなかった"鵺"の誕生ぞ」
クククと笑う土蜘蛛にそう告げると「行くぞ」と背中を向ける。
「鵺…鵺ねぇ…そういやぁ四百年前といえば…」
「ん」
「鞍馬の天狗はどこ行った？それとあのじじいは何者だい？まぁオレのいねぇ間に天狗はさすがに年で死んだか」
そう問いかけてくる土蜘蛛に足を止めて振り返る鬼童丸だったが。
「……天狗？何の話をしているのだ？」
「あん？」
帰ってきた言葉に固まる。
京妖怪二人の間にも何やら四百年間の間に記憶の齟齬が生じているようだった。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年3月7日 1時
