君に来世はない (ページ29)

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振り返って彼の顔を見るとやっぱり顔は少し怒っていて、黒髪をかきあげため息をついて私に近寄ってくる。ドアノブに手をかけている私の左手を掴み、後ろのドアに手首を貼り付けられる。
背中も同時に後ろのドアにぶつかって、変に冷静になった頭は｢何これ壁ドンじゃん｣なんて数年前に流行った日本での漫画を思い出す。

｢ねぇ、答えて｣

｢…おじさんは、私が殺したの…街の人にもそう言って警察にも言って。私はこの街から居なくなるから、迷惑にはなんないよ｣

｢答えになってないんだけど。僕はAちゃんがこの街から居なくなっていいなんて一言も言ってない｣

｢っでも！でも…こんな、こんな私なんかともうジョンインくんは一緒に居たく、ないでしょう？｣

今にも唇が触れてしまいそうな距離にいるジョンインくんが首を傾げて、なんで？とまた聞いてくる。なんで、なんて1番君がわかっているくせに。
おじさんの言う通り私は父親に言われて体を売って稼いでいた時期がある。何故それをおじさんが知っていたのかは分からないが、それでもジョンインくんには知って欲しくなかった。そんな汚い女に好意を寄せられることなんて気持ち悪いに違いないんだから。

なのに、ジョンインくんは不思議そうな表情をしていて腹が立ってくる。私だって好きでしてた訳じゃないし、私だって好きであなたの事を愛してしまったわけじゃないのに。
ジョンインくんの事なんて好きにならなきゃ良かった。毎日私に優しさと温もりをくれる彼を突っぱねて独りで過ごせばよかったのに。
目からじわっと雫が溢れ、頬を伝うのが分かる。それを見たジョンインくんはさっきまで怒ってたのに慌てて私の涙を丁寧に拭ってくれるのだから笑ってしまう。

｢……おじさんが死ぬ前に言ってたこと本当なの。体を売って稼いでいたってやつ。ほら、私が見殺しにした父親に言われて…拒否権なんて無くて、お金を稼いでこなかったら待ってるのは暴力。暴力を回避するためには心と体を捨てなきゃいけなかったの。…ジョンインくんには知られたくなかったの｣

｢…そっか｣

｢体を売って、しかもお世話になってたおじさんを鈍器で殴っちゃう女なんてジョンインくんの近くにいていいわけ、ないじゃん。それくらい馬鹿な私でもわかるよ。
綺麗なジョンインくんと、汚い私なんか一緒にいちゃ駄目なんだよ｣

だからね、消えたいの。