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｢Aちゃん！｣
パニックになって叫びそうになった私を強く抱きしめて背中をさすってくれるジョンインくん。はっはっと息が上手く吐けなくて過呼吸になってしまい目の前がどんどん暗くなっていく。ああ、最悪だ。何もかも最悪な日、ジョンインくんにだけは知られたくなかったのに失望されちゃったかな、嫌われちゃったかもしれない、なんて考えていると余計に過呼吸が酷くなる。
手に持っていたトロフィーを離すと、大きな音を立ててあっけなく床に落ちて転がった。
｢Aちゃん、ごめん｣
ひゅっひゅっと浅い息をずっと吸って過呼吸が治らない私に謝ったかと思うと、息を吸っていたはずの口が強制的に閉じられた。
否、正確に言うと吸っていたはずの唇がジョンインくんの柔らかい唇と重なったのだ。唇を離したかと思うと、｢僕の口の中に息吐いて｣と言われ再び唇が合わさる。少し開いた唇に遠慮なく息を吐いたりすったりしていると徐々に過呼吸が納まってきた。
｢Aちゃんは偉いね｣
いつか懺悔室で言ってくれた同じような言葉を受け取り、ふわふわとしてしまったが呻く声が聞こえてハッと意識が戻る。
まだ息絶えてはいなかったようで、声を出しながら助けを求めるおじさんが視界に入る。救急車を、よばなきゃ。
自室にある携帯を取ろうとジョンインくんの腕から抜け出そうとするが彼の腕の力が強く抜け出せない。
こんな男、死んでしまえばいい。また見殺しにしてしまえば良いんだ、と昔の私が脳内を支配する。
｢し、しんぷ…ざま…た、す゛け──ぁ゛あ゛｣
再びゴン、と鈍い音が玄関に響いた。
私ではなく、あれほど自分が殴って暴力を奮っていた神父様に助けを求めた情けない男は全て言葉を言い切る前に再び床に突っ伏した。
何が起きたんだ、と顔を上げると倒れたおじさんの後ろには私が床に落としたはずの血で濡れたトロフィーを手に持ったお義母さんが立っていた。
｢おかあ、さん｣
｢…この人は、私が殺したの。Aは、何も悪くない、あなたは何もしてないわ。Aは何もしてないの｣
トロフィーなんて重たいもの、今のお義母さんじゃ持つだけでも辛いはずなのに。しゃがみこむ私とジョンインくんに近寄ってきたお義母さんは2人まとめて細い腕で抱きしめてくれた。傍で死んでいるおじさんの事なんてまるで居ないかのように3人で抱きしめ合う姿は異様だっただろう。わんわん泣く私にお義母さんとジョンインくんはずっと背中を摩ってくれていた。
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作者名：おむすび | 作成日時：2023年7月23日 22時
