己の役柄_2【キャラまとめ】 (ページ33)

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過去:
「ーーさあ、読んでごらん」
それが、彼女が人生で最も多く聞いた言葉だ。裏図書館協会の人間図書館プロジェクトーーリブレリーアプロジェクトの一期生である彼女の記憶の大半は、紙のページをめくったり、スクリーンにうつる文字列をスクロールしていったり、その文字を音読したり何度も繰り返し読んだりーーというものだった。彼女は記憶力だけでなく集中力にも優れており、一度本と向き合い始めれば休憩もなく何時間も何時間も覚えこみをすることができた。そして、そのように読み続ける彼女へ大人達はよく言った。
「文美ちゃんはすごいねえ」
褒められると嬉しかったから、彼女はひたすらその文字列を頭の中に詰め込んだ。鴉もこそ見つくれ、主従二騎になつてのたまひけるは、仏道を修して終に羅漢を得たり、ちはやふる神代も聞かず竜田川…………烏って？主従って？仏道は、羅漢は？竜田川って何ーーそう止まってしまえば、頭の中にしまい込むのに時間がかかると気づいた。だから彼女は止まらず、意味など意に介さず、ただひたすら文字列と音を詰め込むことに集中した。
けれどそんなある日、彼女はふと気づいた。休憩中、他の人と話している子がいる。今覚えてる本が面白いってーー。面白いって、何？あんなの、ただの線と音の塊なのに？そう戸惑っていると、その人は彼女を見て言った。
「ねえ、文美さんはいま、どんな本を覚えているの？」
答えることが出来なかった。
それでいいじゃない。今までそれでやってきた。けれどーーどうしてこう、胸の辺りが気持ち悪いのだろう。そう気づいて、彼女が「意味」に向き合い始めたのは、ちょうど2年前のこと。

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