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ページ8

ぱたん、と本を閉じ、若葉が次の一冊を取ろうとした時。
「何なんだよ君は!」
「へぇ?」
いきなり振り向き、立ち上がった尾崎の怒声に、若葉は危うく取った本を落としかける。
「こうやって作家が悩んでいるとき、ファンは『お茶入れましょうか?』とか『ゆっくりでいいですよ、私は尾崎先生の本が読めるだけで幸せです!』とか目を輝かせながら言うもんだろう! 君は何のためにここにいるんだ!」
なあんだ、いつも通りか。
尾崎のまくし立ては平常運転であると思い出した若葉は、うんうん、と頷きながら先程取った本を開いた。1ページ目には、『山月記』とある。
これ、前貸してもらったなぁ。それで、「虎になるって、乗り移るのとどう体感が違うのかなぁ」って感想を言ったら、「君は何も分かっちゃいない!」って怒られて、緊急講義が始まったんだっけ、とぼんやりと思い出す。そのおかげで、尾崎の怒声は右から左。ふんふん、と適当に頷きながら、ページをめくる。文字はいつものように、素直には彼女の頭の中へ入ってきてくれない。何となく文字を目で追いながら、頭の中では、「この辺に虎いないかな、いっぺん乗り移ってみたい」など考えている。
そんな様子の彼女を、じとりと見る尾崎。
「全く、君は人の気持ちが分からないのか!」
「そう、分からないの!」
彼の言葉に、若葉は急に反応した。腰を浮かして身を乗り出すほどの食いつきぶりに、思わず尾崎は面食らう。
「分からないの、私。人の気持ちが。この前も他の隊員さんに言われたんだけど。だって、人の気持ちって見えないでしょう? あぁ、そりゃ脳の活動領域とか調べたら分かるだろうけど、そんなの日常生活じゃできないし。でも、みんな『あなたは人の気持ちが分からない』って咎めるってことは、他の人達は分かるってことでしょう? どうやってるの?」
彼女はそう早口で捲し立てた後、さあ答えをどうぞ、と好奇心いっぱいの、きらきらした瞳で見つめる。
あまりの急な出来事に、彼は目をぱちぱちとさせた後、ぐ、と音を立てながら唾を飲み込む。
「エート、それはだな……」
「うん!」
こうなった若葉は、最早答えしか求めていない。多分答えが出るまで動かない。これまでの付き合いからそれは尾崎も重々承知。腹を括ったように、腰を下ろして胡座をかく。
迷うように瞳を左右に動かし──ふと、彼女の持つ本が彼の視界に入った。

*→←全ては紙上、或いはあなたの中に。



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紫清(プロフ) - くろせさん» いえいえ、くろせさんの素晴らしい小説があったから生まれたものなので……! こちらこそ、ありがとうございました! (9月7日 18時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» ありがとうございます! 冥土……政士君に追い返されちゃうんじゃないですかね(迷推理) (9月7日 18時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
くろせ(プロフ) - これは政士も張り切って待っちゃいますね。また再開した頃にはお返しに1発ぶん殴って欲しいものです(笑) 素敵な文章をありがとうございます! (9月6日 19時) (レス) id: 62819c8559 (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - あ、いい……(尊死)冥土の土産に貴方様のお話を持って行かせていただきますね! (9月6日 19時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ▼鏡夜▼さん» 良かったです、リクありがとうございました! (8月12日 23時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紫清 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年5月14日 23時

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