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死に損ないより愛を込めて ページ41

要するに、人間の営みなど無駄であるかもしれない。
 かつてあった国の詩人は歌っていた。国が滅びようと山河は変わらずあり、季節は巡り、春になれば草木が茂り花が咲く。
 かつてあった国の人々は、ただ普通に生きていた。けれど災害、或いは書類一つで幾万の生活は消えとんだ。
 つまりどれほど真面目に生きていようと、人一人の影響力などたかが知れている。
 それが凡人であるならば、尚更。
 するり、と手が抜けた感触を──ヴァイスは、5年経った今でも容易く思い出せる。
 彼と訪れた場所、彼と話したこと、彼と関わった人、彼が持っていたもの。
 日々のふとした瞬間に、その感触は鮮やかに蘇るのであった。
 夕陽が沈み、また一日が終わる。煙でもふかして格好つけたくなるような橙が空に広がる。煙草はポケットに新品のものが入っているが──あいにく喉に合わない。何本も吸って見た。まずは細い女用のものから。けれどいつまで経っても美味しいとは感じられないから辞めた。寿命が短くなっても困るし、と。
「まだいたのかサトリ野郎」
「うるせえ、お前はこれから当番だろ。詰所戻れ」
 やだね、と言いながらグレイがヴァイスの隣に並ぶ。そして続けた。──加賀さんからのお願いだからな、と。
「今日、犬の月命日だろ。そんな日に屋上に上がってちゃ、そりゃ心配されるわ」
「余計なお世話だっての。凡人は、世を儚んでも結局重要なのは明日の飯だからな。──それに」
 それに? とグレイが続ける。
 手前に言う筋合いはない、と多分いつもだったら言うのだろうけど。美しい夕陽が彼の口を緩くしたのか、言葉を続けた。
「俺、ちょっと前にあいつに会ったんだ」
「……カウンセリングの予約取ってきた方がいいぞ」
 真顔でグレイが言ったものだから、そのまま身動ぎ一つせず彼の横っ面に裏拳を叩き込む。
「ひでえ、珍しく気遣い見せたのに」
「お前にムードという概念はないのか。分かってるよ、幻覚だ」

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紫清(プロフ) - くろせさん» いえいえ、くろせさんの素晴らしい小説があったから生まれたものなので……! こちらこそ、ありがとうございました! (9月7日 18時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» ありがとうございます! 冥土……政士君に追い返されちゃうんじゃないですかね(迷推理) (9月7日 18時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
くろせ(プロフ) - これは政士も張り切って待っちゃいますね。また再開した頃にはお返しに1発ぶん殴って欲しいものです(笑) 素敵な文章をありがとうございます! (9月6日 19時) (レス) id: 62819c8559 (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - あ、いい……(尊死)冥土の土産に貴方様のお話を持って行かせていただきますね! (9月6日 19時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ▼鏡夜▼さん» 良かったです、リクありがとうございました! (8月12日 23時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紫清 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年5月14日 23時

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