＊ ページ32
「息子さんのことですよ！ 彼は今回、合格ラインに──」
「君は、」
声を荒らげている訳でもない、静かな声だった。けれどそれを境に、一瞬、世界から全ての音が消えた。
遠のきかけたパーティーの喧騒が戻ってきた頃、父親が続きを語る。
「とてもとても利口な犬がいたとして、その犬に人間の服を着せて人間のものを食べさせ、戸籍を取らせて働かせ、現金で給料を受け取らさせ──なんて、完全に人と同等にしてやろうとするかね？」
「お前っ！」
──そう言おうとした。確かに、政士は駆け出そうとした。生まれて始めて、父という偉大な存在に歯向かおうとした。けれど、それを阻んだのは──
「待て、落ち着け。……今のが真実かどうかは置いといて、ここで手を出したら親父さんの思うツボだろ？ 完全に弱みを握られちまう。確実に抜け出せなくなるぞ！」
反射で彼を抑えつけたヴァイスだった。
「分かってる、分かってるけど。ちくしょう、どきやがれ！」
「どかねぇ。ここでお前が親父さんを殴ってどうなる。これまでの努力が水の泡だろうが！」
「いいから！ ……分かってんだよ、全部。でもよぉ……」
しかし、互いにもみ合っている間に、二つの人影は消えていた。
それに気づいた途端、ぐったりと力は抜け、何とも言えない疲労感が彼らを襲う。
その争いに巻き込まれてしまった、政士曰く「高い煙草」は潰されて見るも無残な姿になっていた。
「──悪かった。冷静になったら、お前の言う通りだった。あそこで親父のことを殴って、何が変わるんだか」
先に口を開いたのは政士。自嘲的に、瞳の光を消して言葉を紡ぐ。ヴァイスに詫びる、というより、自分を納得させるように。
「だから、とりあえず今日は帰って頭冷やして来るわ。悪かったな」
未だ座り込んだままのヴァイスを放って、彼は立ち上がる。
服やズボンを叩くが、真っ白な制服に着いた泥はなかなか落ちない。諦めたように、規則正しいリズムで歩き始め、だんだんと姿が見えなくなる。
何か言わなければ。けれど、自分が言って何になる。そもそも何を言えばいい──柄にもなく、彼が言葉を失っていた瞬間だった。
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紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» なんですかねそれ尊すぎやしませんか？？ そしてそれを桐箪笥さんが書いてくれる、と……（控えろ） (2020年1月1日 0時) (
レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - 紫清さん» なんだかその後に早朝、神社などに思った訪れて御籤を引いてみんなで甘酒でも呑むのかな…と想像してしまいました。ごめんなさい、つい…想像が止まらない… (2019年12月31日 23時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» グレイくんはそういう所Z要領良さそうだなと思いまして笑 私も、彼らの幸せそうな姿が書けて楽しかったです！ (2019年12月31日 22時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - くろせさん» ありがとうございます！ 昇華隊の野郎共はいいですよね！！（負けじと大声） (2019年12月31日 22時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - グレイ…とことんやるだけやって責任放棄ですか、そうですか← 幸せそうなみんなが見れて感無量です！ (2019年12月31日 22時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)
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