* ページ28
おはようございます、と平常通り詰所へ入る。自分の机へつくと、目の前に座る熊のような容姿が特徴的な上司が、からっとした笑顔を浮かべながら話しかけてくる。
「机の整理を始めないってこたぁ、だめだったのか」
一見するとデリカシーのない発言だが、こうストレートに聞くのが彼の良さであった。
「まぁそうですね。でも、先輩もでしょ?」
「そのとーり。50にもなって居座る奴がいるんだから、まだ20のお前が落ち込む必要はないさ!」
「そうだそうだ、確率的には採用される方が異常なんだ! ちなみに俺もダメだったぞ。あとコイツも」
「ちょ、勝手に言うな」
途端に部屋の中が明るい──明るい、と信じ込まなければやっていけないような、そんな笑い声に包まれる。
「じゃあ、この部屋のメンバーは皆仲良く今年も、ってことだね」
そう言うのは、ヴァイスより2歳年上の女性。激戦区の上に判定が変わりやすい「小説」の分野で才人を目指す彼女は今年、審査員の好みを掴み損ねたばかりに選出を逃した。
いやでも、とヴァイスの言葉が喉まで上がる。何故なら、いつものなら一番に埋まる、彼の横──政士の席が未だ空だったためだ。
それに、テスト前に彼と政士は二人で提出する論文の読み合いをした。その際に彼が読んだ政士の論文は素晴らしい──どころか、「異常」と言っても良いほどの出来だった。そこに加えて、彼には教養に関する筆記テストでも、ここ昇華隊での功績でも隙はない。
置いて行かれるな、これは。
そんなことは、『不合格』という字を見た瞬間から察していた。
落ち込んでいる暇などない。すぐに追いついてやればいい事だ──
そう思っていた矢先。
「おはようございます。まだセーフ、ですよね?」
「おうとも。しかし義忠がギリギリたぁ珍しいな。寝坊でもしたか?」
そんな感じです、と政士はいつもの苦笑いで返した。
駄目だったんだな、と今度は誰も聞かない。
何故。あいつは今回。けれど。何か、作為が。それにしても、どうして──
部屋に満ちた疑念をかき消すように、始業のベルが鳴った。
7人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» なんですかねそれ尊すぎやしませんか?? そしてそれを桐箪笥さんが書いてくれる、と……(控えろ) (2020年1月1日 0時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - 紫清さん» なんだかその後に早朝、神社などに思った訪れて御籤を引いてみんなで甘酒でも呑むのかな…と想像してしまいました。ごめんなさい、つい…想像が止まらない… (2019年12月31日 23時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» グレイくんはそういう所Z要領良さそうだなと思いまして笑 私も、彼らの幸せそうな姿が書けて楽しかったです! (2019年12月31日 22時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - くろせさん» ありがとうございます! 昇華隊の野郎共はいいですよね!!(負けじと大声) (2019年12月31日 22時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - グレイ…とことんやるだけやって責任放棄ですか、そうですか← 幸せそうなみんなが見れて感無量です! (2019年12月31日 22時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ