検索窓
今日:3 hit、昨日:5 hit、合計:7,387 hit

飛べない鳥の回想 ページ1

きっと、気が逸っていたんだよ。
何でもないことのように、彼はそう回顧する。



「そう死に急ぐなって、凡人」
ヴァイスが男の額から右手を話すと、彼は顔を真っ赤にしながら、泡を吹いて地に伏した。
そりゃあ凡人が、アラビア語の辞書丸々一冊分頭に入れればそうなるわ。それも数秒で。そう、ヴァイスは笑った。
実を言えば、自分も出力により、視界が揺れんばかりの頭痛がする。
けれどもそんなのは関係ない。こんな痛みごときで立ち止まっているようでは、俺は才人になんてなれない。
どうにか痛みを打ち消そうと、彼が側頭部に手をやった瞬間──やけに近距離でパン、と乾いた音がした。
「注意力散漫になるのは分かるがな、背後の警戒くらいしとけ」
「悪い悪い。まあ、お前なら助けに来てくれると信じてたよ」
くるりとヴァイスが振り返ると、ハンマーを振りあげようとしていた男が、すぐ後ろでゆっくりと倒れる。その影から現れた同僚、政士は表情一つ変えずに、引き金を引いたばかりだった。銃口から放たれた針は、寸分たがわず男の首筋へ打ち込まれている。麻酔銃であったらしい。昏倒した男は、動くことがない。
これまでに政士は何人仕留めて来たのか。目視できる範囲では、三人、倒れている姿が確認された。
「じゃ、お前が来てくれたということで。俺、標的追ってきていい?」
そうヴァイスが指さす先には、麻袋を担いで逃げる者の姿。あの中には、好奇心のあまり護衛を付けず勝手に外に出た、ある才人が入っている。反政府団体の者によって誘拐されたのだ。そして、ヴァイスを初めとする昇華隊は、現在その才人の保護、並びに反政府団体の捕縛を命じられ、任務についている。
「才人が外に出たばかりに」
そんなことを思ってはいけない。だって彼ら才人は、昇華隊などの凡人よりもひどく優れた人間で、凡人は才人に敬意を持って、尽くさねばならないのだから。

*→



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 7.9/10 (16 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
7人がお気に入り
設定タグ:叡智の門は開かれない , オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» なんですかねそれ尊すぎやしませんか?? そしてそれを桐箪笥さんが書いてくれる、と……(控えろ) (2020年1月1日 0時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - 紫清さん» なんだかその後に早朝、神社などに思った訪れて御籤を引いてみんなで甘酒でも呑むのかな…と想像してしまいました。ごめんなさい、つい…想像が止まらない… (2019年12月31日 23時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» グレイくんはそういう所Z要領良さそうだなと思いまして笑 私も、彼らの幸せそうな姿が書けて楽しかったです! (2019年12月31日 22時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - くろせさん» ありがとうございます! 昇華隊の野郎共はいいですよね!!(負けじと大声) (2019年12月31日 22時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - グレイ…とことんやるだけやって責任放棄ですか、そうですか← 幸せそうなみんなが見れて感無量です! (2019年12月31日 22時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:紫清 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年5月14日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。