検索窓
今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:2,026 hit

ページ3

あずみ、というのが女の人の名前なんだろう。あずみさん。やっぱりこの人は女の人だ。可愛い見た目も、くるくると変わる表情も、名前も。すごいなぁ、きっと、産まれた時から女の人、だったんだろう。
「……それにしても、よく俺、じゃなくて私のこと、女だって分かりましたね」
 今の私は、少し伸びてきたとはいえまだうなじも隠し切らない髪に、とりあえず正装、と着てきた中学校の制服。つまりは学ラン。身長も低くはないから、どっちかといえば男だろう。
「え、そう? 支部長が運んできた時からそうかなーと私は思ったけど。だからすぐに引き取って、私が介抱したってわけ」
「――女の子ですか、私」
 思わず聞き返した声は、震えていた。
 すると何かを察してくれたのか、先程まで立っていたあずみさんはすとんと膝を床に下ろした。真っ白なズボンが汚れてしまうのも厭わずに。太陽が地平まで降りてくるみたいに、私としっかり目を合わせて、言った。
「うん、そうよ。君は女の子だと思う。――そしてそれ以上に、君は君、だよ」
 私は女の子で、そして、私は私。
『あなたはね、女の子なのよ』
 ずっとつっかえていた一か月前の言葉より、よほどすとんと落ちる言葉だった。
 そっか、私、女の子か。
 噛み締めると、心のどこかですごく子気味のいい音がした。表情に現れていたのか、そうそう、と言うようにあずみさんは笑う。金色のまつ毛が、白い肌に影を落とした。
「おーい、横島さん。ちょっと来てくれ!」
 直後した声に、はーい、とあずみさんは立ち上がった。少しカーテンを開けて、出ていく前にくるりとこちらを振り返った。
「君、新年度入隊の子だよね? 言い忘れてたけど、私は援護班の横島茜紡。茜に紡ぐであずみって読むの。怪我したらいつでも来てね、後輩ちゃん!」
 その笑顔を真似するように、私も口角を上げてみる。いつぶり、ううん、もしかしたら初めてかもしれない笑顔。はい、と言うと、茜紡さんはバイバイ、と手を振ってくれた。
 

*→←*



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 7.0/10 (9 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
4人がお気に入り
設定タグ:東京-言辞戰線 , オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:紫清 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年1月3日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。