* ページ3
あずみ、というのが女の人の名前なんだろう。あずみさん。やっぱりこの人は女の人だ。可愛い見た目も、くるくると変わる表情も、名前も。すごいなぁ、きっと、産まれた時から女の人、だったんだろう。
「……それにしても、よく俺、じゃなくて私のこと、女だって分かりましたね」
今の私は、少し伸びてきたとはいえまだうなじも隠し切らない髪に、とりあえず正装、と着てきた中学校の制服。つまりは学ラン。身長も低くはないから、どっちかといえば男だろう。
「え、そう? 支部長が運んできた時からそうかなーと私は思ったけど。だからすぐに引き取って、私が介抱したってわけ」
「――女の子ですか、私」
思わず聞き返した声は、震えていた。
すると何かを察してくれたのか、先程まで立っていたあずみさんはすとんと膝を床に下ろした。真っ白なズボンが汚れてしまうのも厭わずに。太陽が地平まで降りてくるみたいに、私としっかり目を合わせて、言った。
「うん、そうよ。君は女の子だと思う。――そしてそれ以上に、君は君、だよ」
私は女の子で、そして、私は私。
『あなたはね、女の子なのよ』
ずっとつっかえていた一か月前の言葉より、よほどすとんと落ちる言葉だった。
そっか、私、女の子か。
噛み締めると、心のどこかですごく子気味のいい音がした。表情に現れていたのか、そうそう、と言うようにあずみさんは笑う。金色のまつ毛が、白い肌に影を落とした。
「おーい、横島さん。ちょっと来てくれ!」
直後した声に、はーい、とあずみさんは立ち上がった。少しカーテンを開けて、出ていく前にくるりとこちらを振り返った。
「君、新年度入隊の子だよね? 言い忘れてたけど、私は援護班の横島茜紡。茜に紡ぐであずみって読むの。怪我したらいつでも来てね、後輩ちゃん!」
その笑顔を真似するように、私も口角を上げてみる。いつぶり、ううん、もしかしたら初めてかもしれない笑顔。はい、と言うと、茜紡さんはバイバイ、と手を振ってくれた。
4人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ