ホワイトアウト(5) ページ5
「なあに?」
…いつの間にか、倒れてしまっていたらしい。頭が地面にくっついて、縫い付けられたように動かない。力が入らない。
「ねえおきて。いま、僕の名前をよんでくれたの?」
これから死ぬであろう人間を、幼い子供が見下ろしていた。純粋で、無垢な瞳をAに向けていた。
「"オーエン"って。」
Aはもう何も考えられなくなっていた。でも、「オーエン」という言葉に意識が引っ張られる。少しずつ、正気を取り戻す。
「……あなたは…おー、えん、?」
彼の名前を呼ぶと、小さな男の子はにこりと微笑んだ。無邪気な笑みだった。彼と同じ銀髪と、真っ赤な瞳を持った男の子はAの腕を引っ張る。
「オーエン…」
「うん。」
「オーエン、」
「こっちにきて」
体に力が入らなかったはずなのに、その子に手を引かれると不思議とすんなり起き上がれた。
進むたび、霧はどんどん濃くなっていく。すぐ前にいるはずの男の子の姿も見えない。
しっかりと繋がれた手の感触だけが、彼の存在を教えてくれた。絶対に離れないように、離さないように、彼の手を握る。
「ここは僕が眠る場所」
ふいに彼が立ち止まる。そこはパチパチと、小さな光の球のようなものが飛び交っていた。
複数人の話し声が聞こえて耳を澄ますも、それは言葉を話しているようには聞こえなかった。
何も見えない。でも来てはいけない場所に足を踏み入れていることだけはわかる。
「ずっと出られない。閉じ込められてるんだ。」
「…誰に?」
「僕に。」
気づけば、握りしめていたはずの手が消えている。でも、不思議と不安にも、追いかけようという気持ちにもならなかった。
数メートル先で、男の子が両腕を広げたのが見えた。上空からぼんやり月の光が降り注ぐ。
「でもね…もうすぐ出られる気がする。……なにか、おおきなものが僕に力を貸してくれる。」
大いなる厄災。オーエンに使命を与えたもの。オーエンを唯一縛り付けて離さないもの。
「ここは僕が眠る場所。ここは…ひとりぼっちで、くらくて、さみしい。」
月の光が強くなる。
「またね。」
眩しさを感じながら、意識が沈んでゆく。
最後に見えたのは、いつもと変わらないオーエンの笑顔。
どこか残酷で、恐ろしく感じたのは気のせいだろうか。
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作者名:藍猫 | 作成日時:2022年4月11日 22時