ホワイトアウト（４） ページ4
「おねえさん」
舌ったらずな、幼い声が聞こえた。
霧が立ち込める森の中、私は必死に手を伸ばす。身を屈めて、夢の森の毒素を吸わないように…多分、無駄だろうけど。
この森はどこもかしこも毒素で溢れている。さっきまで、弱い魔力しか持たない私が意識を保って立っていられたのはオーエンの加護のおかげだろう。
「誰…？」
視界がぼやける。もう長くは持ちそうにない。この声も、幻覚かもしれない。
夢の森に生きた子供がいるはずないのだから。
(この森で亡くなった子供の亡霊かもしれない…)
"こっちだよ、おねえさん。"…私を呼ぶ声は、男の子のものだ。
眠ってしまいそうな体を引きずるようにして、声の方へと体を動かす。
ーーオーエンは、どうして…どうして急に、私を置いて……突き放したのだろう。
鈍る思考の中で、考える。考えれば、最初からおかしかった。
夢の森に行くからと加護をかけてくれたのも優しさなどではなく、私をここに置き去りにして、殺すためなのだとしたら。
突然加護を失い苦しみ、おかしくなっていって、衰弱死する私を見るためだけに連れてきたのだとしたら。
ーーああ、地雷を踏んだのだ、と思う。
最初、家でお茶をしていた時。オーエンの気持ちも考えずに色々と余計なことを言ってしまったような気がする。
「家族」の話。オーエンはそれを聞いて笑っていたけど、本当は怒って…いや、幻滅したのかも。それはきっと、失望に近い何か。
オーエンに許されたと勘違いした。
オーエンを理解したと、オーエンもまた自分のことを理解してくれていると勘違いした。
なんて馬鹿なことをしたんだろう。
オーエンは北の魔法使いだ。
弱い魔法使いと違って群れたりしない、誇り高い魔法使い。
オーエンが私の側にいたのは、私が頼まれる度にお菓子を作ったから。オーエンに対して忠実だったから。
殺しても大したマナ石にならなかったから…。
私は「生かしてもらっていた」だけの存在だったのに、わたしはかんちがいをした。オーエンが、わたしを、すきになってくれるなんて、おろかな、かんちがい、を……
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作者名：藍猫 | 作成日時：2022年4月11日 22時
