ホワイトアウト(3) ページ3
これ以上距離を離されたくなくて、私は走った。
でもいくら走っても追いつけない。気持ちだけが先に行く。まるで夢の中、悪夢から逃げているみたいに。
「こわい、オーエン、手をつないで」
彼は呆れ顔で、いや、なにか、いつもと違う顔をした。そんな、顔で、私の手を取る。僅かに震えていた。
「今も、昔も。…。おまえは不幸なの?」
くらくらする頭の中で、彼の望む通りの解答を思い浮かべた。
「オーエンとおなじで、不幸なひとです」
「僕と同じ…?へえ、おまえ、僕と同じなんだね」
これであっているっけ、私は間違えた?どこからか、いつからか、私は間違えた?
「それじゃあ…僕のことが好き?」
「オーエンのこと…好きですよ。最初は少し怖かったけど…」
さっきから質問ばっかりだ。恥ずかしいなと思いながら、素直な気持ちを口にした。
霧で相手の顔が見えなかったのと、オーエンの声がとても柔らかいものだったからいえたのかも知れない。
「そう。」オーエンはやさしい声で相槌を打った。突然足を止めて、振り返る。その顔を見て私は言葉を失った。
……無表情だった。怒っているわけでも、悲しんでいるわけでも、笑っているわけでもない。
無だ、真っ白だ。そこには何もなかった。ゾッとする。なにか、…なにか、だめだ。
思わず握る手に力を込めた。釣り合いの取れない、酷く優しい声が鼓膜を揺らす。
「僕はおまえのことが大嫌いだよ」
「オーエン…?」
「さようなら、A。」
そう言って、オーエンは……私の手を、離した。
伸ばした手は立ち込める霧によって阻まれる。
霧の中、すぐ近くで揺れていたはずの白色はたちまち見えなくなってしまった。
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作者名:藍猫 | 作成日時:2022年4月11日 22時