かわいい (ページ9)

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腕を握られている手の力が、ぎゅっと強くなる。

唇をそっと離すと、互いの息がぶつかった。

ぽとっと、俺の腕を掴んでいた手が落ちる。

「ご、ごめん…俺何してんだろ」

ガシガシと髪を掻く。そんなことじゃ解決しないのに。

さすがにもう、一度部屋を出て行ったくらいでは解決しないほどの空気にしてしまった。

なんなら、バイトも辞めなきゃいけないくらいのことをしてしまった。

あぁ、やっぱり掛け持ちのままにしておけば良かった
なんて…焦りすぎて、今この場においてどうでもいいことまで頭に浮かぶ。意味がわからない。

「いや意味がわからないって、北山さんのセリフだよね…！ほんとごめん！」

K「な、なんの話…」

あー変なところから話し出してしまった。
もうだめだ。何もうまくいかない。

とりあえず、こんなのセクハラの域じゃん…家出なきゃ。

北山さん、北山さんのお母さんごめんなさい…看病とか言って、やましいことしてしまってごめんなさい…！！

「か、かえる…っ」

K「ちょ…」

上着と鞄を引っ掴んで、玄関へ走った。靴も踏んだまま出ようとすると、また腕を掴まれてしまう。

K「…説明してくれないと、納得できねーけど」

ですよね…今、俺がしてる行動ってすごく身勝手ですよね。

「その…説明もなにも、俺もわかんなくて…。ほんとごめんなさいとしか言いようがないと言うか…」

はぁ、と北山さんはため息をついた。

あぁ…体調悪いんだった、と俺は踏んでいた靴を脱いで、北山さんをベッドへと戻した。

北山さんの体が、冷えているのに熱い。

こんなんじゃ看病しにきたのに体調を悪化させてしまう事態だ。

「あの…後日ちゃんと謝るし、バイトも辞めるから…
とにかく今日は寝てください」

K「………」

「すみませんでした…」

何も言わない北山さんに、ちゃんと頭を下げて謝って。

寝室を出ようとした、が。

K「別に…謝って欲しいとか、バイトやめろとか
俺、言ってねーんだけど！！」

と、去ろうとした俺の背中に大声が刺さり、

振り返ると、体にボスっと枕が当たる。投げられた。

「…え、」

K「げほっ、けほっ！けほっ…！！」

「…あ、ちょ、大丈夫…？」

K「大丈夫じゃねーよ、見りゃわかんだろっ」

触れていいのか迷ったが、背中を丸めて咳き込む北山さんの背中をそっとさする。拒否はされなかった。