かわいい (ページ15)

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K「あー楽しかった。腹いっぱい〜」

まだまだ盛り上がっていたかったが、終電の時間が迫り店を出た。

寒空の下、ポッケに手を突っ込み、肩をすくめて歩く。

北山さんはお酒で体が温まったのか、防寒具も持っていないくせに、上着の前も閉めていない。

「また風邪引くよ。前くらい閉めなよ」

K「んはは、太輔くんってさぁ…モテるっしょ」

「…何よ急に」

そんな反応をすると、否定はしないんだーと揶揄われた。

俺は女に困らないよりも、たくさんの人に囲まれて愛される北山さんの方が羨ましい。

K「彼女は、もう長いの」

「うん。高３の時から、ずっと」

K「うわ、ザ青春だ。んはは」

「北山さんこそ、そういう話は？あるでしょ」

聞き返すと、んーと濁してから口を尖らせて下を向かれる。

自分のことになったら黙るの？と叩くと、北山さんはまた独特な笑い声をあげた。

K「今はない」

「じゃあ前は？」

K「彼女は、いたことない」

「なにそれ。遊んでたってこと？」

K「…彼氏」

「…え？」

K「彼氏…なら、3人。いたよ。遊んでた人は〜」

いち〜にい〜…と指を折り出す北山さんの手がボヤけて見える気がする。

俺は握ってその手を止めた。

「数えなくていーから…」

K「引いた？」

俺は無言で首を横に振った。しっかり振った。

嘘じゃない。本当に引いてない。

でも納得した。

北山さんは男が好きなんだ。

だから、キスされても動揺しなかったんだ。

俺のこともその指の一本に…入れようとしてただけだったんだ。

「引いてないよ」

K「じゃ、良かった」

すると、止めていた手を握られる。

K「これも、引かないの」

「…引かないよ。だってキスしたじゃん」

背伸びしたかった。北山さんに追いつきたかった。

俺だって、男とはないだけで、女性となら遊んだことだってある。付き合ってない人とそういうコトになった経験くらいある。

K「んはは。そういやそーだったな」

19歳だけど、子どもって思われたくなかった。

「…北山さん、俺とも遊ぶ？」

俺たちはやっと止めていた足を動かした。

もう、終電はなかった。