検索窓
今日:6 hit、昨日:6 hit、合計:19,989 hit

[10] ページ10

.




「はい」

翌日、病院で望に楽譜を渡した。

「読みにくいやんな。ごめん」

「全然ええよ」

まじまじとその紙切れを見とる望。

私が見られとるわけやないのに、なんか恥ずかしくて。

気を紛らそうと自動販売機でミルクティーを買った。

望のところへ戻ったら、バッと顔を上げてキラキラな瞳を私に向けて、

「Aの曲やな」

なんて意味不明なことを言うんや。

「は?」

確かに私が作ったけど。

私が考えたリズムと音やけど。

「私の曲?」

「そう!ピアノの音もあったかくて優しくて好きやったんやけど、この曲もあったかくて優しいねん」

私の頭の上に大きなハテナマークが浮かぶ。

「音楽って、なんのためにあるか知っとる?」

急な問いかけとさっきの言葉で頭が全然追いつかへん。

「え?あー、ちょっとまってや」

一度頭を整理して、ひとまず質問されたことを考えた。

「芸術を楽しむため」

「まあ、それもあるんやけど、それだけやないやん?」

それだけじゃない?じゃあほかに何があるんや?

「Aがピアノを弾いていた理由は?」

…、ああ、そういうことか。

「お兄ちゃんを、笑顔に、したくて…」

「なんや、ちゃんと分かっとるやん」

上から言われとる感じでイラッとしたけど、望の考えを聞いて、確かに納得ができた。

「これは俺の考えやけど。



音楽っていうんは、“ 気持ちを伝える手段 ”やないかな?

例えばAやったら、お兄さんを笑顔にしたい、っていう気持ちやろ?」

ぶっ飛んだ話をしとるように思えて、実はしっかり芯が通っとる。

それが望や。

さっき望が言った、あったかくて優しい音、の意味もなんとなく分かった気がした。

「この楽譜にはAの、音楽って楽しい、って気持ちがこもっとんねん」

お兄ちゃんの音があったかくて安心したのは、私と同じ気持ちやったからなんや。

「それに、流れる旋律が、Aのそのものや。せやから、Aの曲や」

形は曖昧で、それでいてはっきりしとる。

それが音楽なんや。

なんだか改めて思い出したような、不思議な感覚になって。

頭の中でぼんやりと、私の描いた旋律をなぞった。





.

[11]→←[9]



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (29 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
93人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:えぇふぇす | 作成日時:2018年9月2日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。