[23] ページ23
.
「Aちゃん」
私の前から、優しい声が聞こえて。
ぱっとその人の顔を見たら、彼は複雑そうに笑った。
「はま、ちゃん」
「覚えとってくれたんやな」
止まることを知らない涙、はまちゃんは、私の涙を拭ってくれた。
「のんちゃんと、約束しとったことがあって、」
「約束…?」
ついてきて、と目線で言ったはまちゃんに、一口しか飲んでへんブラックコーヒーを持って、立ち上がった。
向かった先は、屋上やった。
「いつもな、ここで練習しとってん。俺とテレビ電話繋いで、くだらんこと話しながら」
望と練習したことが、頭の中を駆け巡る。
あーあ、ほんまに好きやったんやなぁ。
「完成した時、動画を撮ってん。保険や、ってのんちゃんが」
そう。
ほんまやったら生で聴くはずやった。
「まさかほんまにその保険を使うなんて、思っとらんかったし、使いたくなかってんけど」
小さなスマホの画面に映る、望の姿。
その真ん中には、再生を表す三角のマークがある。
「しっかり聴いたって。これがのんちゃんとの約束やから」
屋上に来たのは、ちゃんととなりにいるように再現するため。
目を、そらしちゃだめ。
まっすぐ、その画面を見るんや。
また涙が視界を邪魔する。
一度、深呼吸をして。
涙をしっかり拭って。
震える手を伸ばして、三角のマークを押した。
.
93人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:えぇふぇす | 作成日時:2018年9月2日 0時