検索窓
今日:2 hit、昨日:5 hit、合計:19,979 hit

[22] ページ22

.





あれから二ヶ月が過ぎた。

私は、望の病室で、うつむいとった。


涙を流す、望の母親、望の父親、望の姉、その他多くの親戚であろう人。

部屋の隅に突っ立った私は、ただ、ほかの人の嗚咽を聞くだけやった。



涙は、なぜか出てこぉへんかった。






あの日から、望は一度も目を覚ますことなく他界した。


ほんまは、まだ生きとった。

でも、望の体はもう限界で、人口呼吸器が外せへんほど頻繁にその症状が出たそうや。



たくさんの線に繋がれて、息をすることも自分ではほぼ不可能になってしまった望を、苦しみから解放させてあげたい。

それが望の家族で話し合った結果やったそう。



だから今こうして、望の病室で、人口呼吸器を外した。

心拍数を教える装置は電源を切って、脈が無くなるのをただ待つ。

こんなに辛い時間は、今までで一度もなかった。

1秒が1分に、1時間に感じるほど、長く、長く、どうすることもできへん時間やった。



主治医の先生が望の終わりを告げる。

途端に泣き出す人たち。



逃げ出したい衝動に駆られた。

やから、なるべく音を立てへんように、その部屋から逃げた。


病院の中にもかかわらず、全力で走って、注意されても走って、休憩スペースに向かう。



ミルクティーが飲みたかった。

でも、自動販売機の前に立ったら、ミルクティーで望を思い出してもうて、とっさに好きでもないブラックコーヒーを選んでもうた。


ゆっくりベンチに腰掛けると、自然と涙が溢れてきて。


おかしいな...。

望むのことは好きになるつもりなんて、なかったんに。

両親を失ったあの日、もう大切な人を失うんは嫌やって、大切な人なんて作らへんって決めたんに。

いなくなってから気づく、こんなにも大きな気持ち。



力の入らない手で何とかプルタブをあけた。


「、にっが、…」

飲み慣れないブラックコーヒーは、すっごく苦くて、口に合わへんくて、余計に私の涙を誘った。





.

[23]→←[21]



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (29 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
93人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:えぇふぇす | 作成日時:2018年9月2日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。