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あれから二ヶ月が過ぎた。
私は、望の病室で、うつむいとった。
涙を流す、望の母親、望の父親、望の姉、その他多くの親戚であろう人。
部屋の隅に突っ立った私は、ただ、ほかの人の嗚咽を聞くだけやった。
涙は、なぜか出てこぉへんかった。
あの日から、望は一度も目を覚ますことなく他界した。
ほんまは、まだ生きとった。
でも、望の体はもう限界で、人口呼吸器が外せへんほど頻繁にその症状が出たそうや。
たくさんの線に繋がれて、息をすることも自分ではほぼ不可能になってしまった望を、苦しみから解放させてあげたい。
それが望の家族で話し合った結果やったそう。
だから今こうして、望の病室で、人口呼吸器を外した。
心拍数を教える装置は電源を切って、脈が無くなるのをただ待つ。
こんなに辛い時間は、今までで一度もなかった。
1秒が1分に、1時間に感じるほど、長く、長く、どうすることもできへん時間やった。
主治医の先生が望の終わりを告げる。
途端に泣き出す人たち。
逃げ出したい衝動に駆られた。
やから、なるべく音を立てへんように、その部屋から逃げた。
病院の中にもかかわらず、全力で走って、注意されても走って、休憩スペースに向かう。
ミルクティーが飲みたかった。
でも、自動販売機の前に立ったら、ミルクティーで望を思い出してもうて、とっさに好きでもないブラックコーヒーを選んでもうた。
ゆっくりベンチに腰掛けると、自然と涙が溢れてきて。
おかしいな...。
望むのことは好きになるつもりなんて、なかったんに。
両親を失ったあの日、もう大切な人を失うんは嫌やって、大切な人なんて作らへんって決めたんに。
いなくなってから気づく、こんなにも大きな気持ち。
力の入らない手で何とかプルタブをあけた。
「、にっが、…」
飲み慣れないブラックコーヒーは、すっごく苦くて、口に合わへんくて、余計に私の涙を誘った。
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作者名:えぇふぇす | 作成日時:2018年9月2日 0時