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「失礼します」

学校帰り、まっすぐ病院に足を運ぶのはもう日課となっていた。

病室に入ったときに目に入ったのは、スマホの小さな画面に向かって話しかけている望の姿。

「あ、A」

椅子の横に荷物を置いて、望のスマホをチラッと覗いた。

「あ、もしかして君がのんちゃんの言ってたAちゃん?」

そこにいたのは、なで肩が印象的な優しい口調のお兄さん。

「この前話したギターが趣味の知り合いやで」

「はまちゃんって呼んでなー」

どうやら望はスマホでテレビ電話をしているらしい。

「はまちゃんはギターめっちゃうまいねんで!」

「せや、なんか一曲聞かしたろか?リクエストある?」

私の返事も待たずにどんどん進んでいく会話。

「はまちゃんは歌もうまいし…。A、何がええと思う?」

「ええ、急に振られても」

リクエストするつもりはなかったんやけど、どうやら選曲は私に任されているらしいので、流行りのポップスを適当に選んだ。

「ちょっと待ってなー」

ランダムに和音を鳴らしていくはまちゃんは、数秒後、「いくで」と合図をして、曲を始めた。



素直に驚いた。

即興にしてはレベルの高い演奏と、美しい歌声に聴き入って、

「…すごい、」

思わずそう漏らしてしまうほど。

演奏が終わって、「どうやった?」とはまちゃんに聞かれた。

「え、あ、す、すごかったです」

驚きすぎて、出てきた感想は小学生レベル。

「やっぱりはまちゃんは歌もギターも上手やな」

これが趣味だなんて、勿体無いと思ってしまう。

音楽をやってきた私でも、そのくらい感動した。



楽器に、触りたい。

はまちゃんの、あの楽しそうな表情と、あのギターの綺麗な音色を聴いたら、そう思わずにはいられなかった。

でも、私の手じゃ、何もできない。

ピアノを弾いたって、音がぐちゃぐちゃになることくらい、想像ができる。

そう思ったら、悔しくて。

どこにもぶつけられない感情を押し殺すように、必死に拳に力を込めた。





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作者名:えぇふぇす | 作成日時:2018年9月2日 0時

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