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とある日のこと。
すでに日常になった望との勉強をしながら他愛ない話をした。
「最近寒くなってきたなぁ」
「えぇやん、望はあんまり外でないんやから」
季節は秋。
病院の中こそ暖かいけれど、外の空気はひんやりと乾燥している。
「けど俺、やっぱり夏が好きやねん。楽しいことたくさんあるやん?」
「私はどちらかといえば冬が好きやけど」
確認のために望の出した問題をゆっくり解きながら、優しい声に耳をすませた。
「えぇ、寒いだけやん」
「やから、めったに外に出ない人が、何言うとんねん」
できた、と、綺麗とは言えへんノートを望に見せる。
「ん。おっけーやな!おし。ちょっと休憩しようか」
望はノートを閉じて、近くの棚からあるものを取り出した。
「りんご?どうしたの、りんごなんて」
「おかんが持ってきてくれてん!秋やからって」
同じ棚からフルーツナイフも手に取った望。
袋を下に置いて、りんごを剥き始めた。
「ほい。できたで」
切ったりんごをお皿に乗せて、ベッドの付属のテーブルに置いて。
なんでこんなになんでもできるんやろ。
なんてちょっとだけ嫉妬のような感情になったけど、言ったら調子に乗るのはわかるので言わへん。
「食べへんの?」
「…、ううん、いただきます」
認めたくないけど、かっこよくて。
認めたくないけど、頭が良くて。
認めたくないけど、人をポジティブにさせる力を持ってる。
それが望。
私と比べたら、出来すぎるくらいで。
思わず、小さなため息が漏れた。
「なぁ、知っとる?」
突然話し始めたのは、りんごについての豆知識。
「何が」
「りんごにも、花言葉ってあるんやで」
自慢げに話す望に、また腹がたつ。
「あっそ」
「ええ、興味持ってやぁ」
私が可愛くない性格なんは自覚しとるけど、絶対半分は望のせいや。
甘いような、酸っぱいようなりんごは、素直になれへん私みたいやな。
柄にもなくポエムみたいなことを思って、自分で恥ずかしくなった。
あまりツンツンしすぎると望がしつこいので、聞いてあげることにする。
「じゃあ教えて。りんごの花言葉」
食いついたのが嬉しかったのか、パァーッと笑顔を作った望。
そして、その顔のまま私に話した。
「りんごの花言葉は__、
“最も美しい人へ”」
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作者名:えぇふぇす | 作成日時:2018年9月2日 0時