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学校が終わって、放課後。
家に帰るよりも先に、病院へ足を運んだ。
めんどくさいって思ってたはずなのに、なんだか楽しくて。
あの日あんなに絶望して、あんなに拒絶した音楽を、まだ私にできるなんて思ってなかったから。
いつ来ても大きな病院だなぁ、と思いながら望の病室がある七階を越して屋上へ向かった。
楽譜を渡したその日。
私の仕事はこれで終わり、なんて、ちょっとだけ達成感すら感じとった。
でも、予想外な事を話してきたから。
「ありがとうな、A」
「…、まぁ、曲作りも楽しかったで」
「なぁA」
「…、俺、ギター弾けへんねん」
妙ににこにこしとった。
それが当たり前みたいな顔をして。
「…、は?」
「せやから、教えて?」
ピアノしかやったことのない私にギターを教えてなんて、無茶振りすぎるやん!
けど、なんかまた丸く収められて、教えることになってもうたんや。
あ、でも、その分私にもお返しみたいなことで、勉強を教えてもらうことになった。
授業で聞き逃したところ、ノートが追いつかなくて忘れちゃったところ。
なんでも望いわく、「俺、割と頭ええねんで!」らしいので。
まぁそんなわけで、屋上に向かってるんや。
室内じゃ、大きな音は出せへんからな。
ドアを開けると、紙とにらめっこした望が座っとった。
「あ、A。ちょうどよかった」
とりあえず望のとなりに座って、話を聞く。
「このコードって…」
その内容は、楽譜について。
私が来るまで譜読みをしていたらしい望は、前回練習したところの確認をしとった。
「それは、こっちのコードやで」
「あ、あー!そうやったわ」
ギターは全くの素人な私は、家ですることがない時間はギターについて調べたりした。
そのうちにまた楽しくなってきて。
「おーきに!んで、次も教えてや」
手がほぼ自由がきかない状態になる前までは、こんなに純粋に楽しめなかった気がする。
怪我をして、背負ってたものがなくなって、また、ピアノを始めた頃と同じ気持ちがわかったんや。
「望、ありがとう」
「んー?急になんやねん」
音楽の可能性は無限大。
私にだってまだできることはあるんやって。
そう教えてくれたんは、望やから。
ありがとう。
唐突な私の発言を深く掘ることもなく、望は、新鮮なギターの弦の音を響かせた。
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作者名:えぇふぇす | 作成日時:2018年9月2日 0時