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「じゃ、」
私は席を立って、帰ろうとした。
「おん、またな」
ふと、彼の“また”という言葉に引っかかって。
「もう来るつもりないんで」
ええっ！？って少し大きめの声で驚いた様子の彼。
私は構わず背中を向けようとした。
「自分っ、名前は？」
不意に聞かれたことに、答えるつもりなんて1ミリもない。
「なんで言わなあかんの？だいたい、もう会わへんのに」
困った顔をした彼は、思いついたような顔で私にある提案をしたんや。
「じゃあ、もし、またここに来たら、そんときに名前教えてや」
約束、と付け加えて言った彼に、私は呆れた。
もう会わへんって言った人と約束？
しかも初対面の人と？
「アホなんちゃう」
ほんまは言うつもりはなかってんけど、ぽろっと出て来てもうたみたいや。
「な、ええやろ？」
あまり深く考えてへんかった。
どうせここにはもう用事はあらへんし、きっと来ることもあらへん。
彼は約束を受けないと引いてくれそうにないから、
「はぁ、わかったよ。約束すればええんやろ」
面倒ごとには極力付き合いたくない性格で。
ぶっきらぼうに言い放った私の言葉に、彼は、ぱぁっ、と効果音がつきそうな表情で私を見つめた。
「俺、小瀧望やから！」
「…、あっそ」
きっと明日には、いや、数秒後には忘れとる名前を聞いたふりをして、彼に背中をむけた。
そう、後から考えてみれば、この時無理やりにでも私と約束してくれてほんまによかったなって思っとる。
私は、彼に出会ってへんかったら、変われてへんかったんやから。
彼の名は、望。
私の人生に大きな影響を与えた人や。
彼に出会えて良かった、と思うのは、まだもう少し先のこと。
私には友だちがおらへん。
学校に行っても誰も声をかけてこぉへんし、まず私から声をかけへん。
必要ないから、ただそれだけ。
友だちなんて作ったところで、きっとすぐに見放される。
そうされてきた人をこの目で何人も見とる。
それに、辛いから。
なんでも話せて、心を開いとって、お互いのことをよう知っとる。
そんな深い関係の人を作ってしもうたら、いつか来るお別れが、耐えられへんくなるから。
だから、いらない。
望も、例外やない。
関わったら、大切な人になってしまいそうで、本当は少し怖い。
もしもあの時みたいに突然いなくなったら＿＿、
そう、考えるだけでも怖いんや。
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作者名：えぇふぇす | 作成日時：2018年9月2日 0時
