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と「俺、別に誰のことでも分かるわけじゃないよ」
襟元から漏れる白い吐息が縦に立ち上る。
と「浅谷さんが……分かりやすいんじゃない」
『それ貶してる？』
と「褒めてる」
ゴゥと音を立ててやって来たヘッドライトが、私たちを無視して消えて行った。
と「俺、これでも空気読むタイプじゃん」
『これでもって？』
と「なんかキレキャラみたいなのやってる割に」
『ああ、そうだね』
ナンバープレートを必死に見つめた彼は、脱力する。
と「見れんかった」
『速かったもんね』
と「いや、初め。浅谷さんと出会った当初くらい」
『ん？』
切れ長の目は、どこか遠い所を見つめていた。
と「顔がさ……綺麗だから。緊張して何も見れんくて。そのせいで気遣いたいのに機嫌とか読めんからより緊張して」
『そんなに？(笑) 』
と「そんなにだよ。深刻だったんだから」
まあたしかに、あの時期のとしみつくんは相当だった。名古屋で助けて貰った日からようやく、目が合うようになったくらいだ。
と「だから……俺の車で喋った日あるじゃん。名古屋で」
『うん』
同じ日を思っていたことが少し可笑しい。薄く笑う私に気付かず、彼は話し続けた。
と「あん時、目見てビックリしたんだよね。あ、こんなに目で語るタイプの子だったんだって」
『目で語ってるの？私』
と「うん。なんか基本、それこそ画面の中に来る時は、絶対アイドルの目してるじゃん」
『なんか恥ずいねそれ』
と「ホントに虫さんが言ってるみたいな……太陽みたいな目」
としみつくんは、だから皆浅谷さんってアイドルに夢中になるんだよと続けた。
と「ただその分、カメラ裏じゃなくて……てつやと話す時とかになると、普通に目揺れたりするからビビった」
『目揺れるってなに』
と「なんか……動揺的な。分かんないけど」
『分かんないんじゃん』
分かんないねと呟いて、彼は口を噤んだ。
私も黙ったまま、歩みだけを進める。
と「でも、良かった」
『なにが？』
と「俺、浅谷さんの役に立ってんでしょ？カウンセラーとして」
『立ってる立ってる。その点、東海オンエアの中で一番信頼してる』
また暫くの沈黙。そして彼は小さく呟いた。
と「弟キャラ脱却？」
『なに？弟キャラ嫌なの？』
と「嫌…かな。りょうのことお兄ちゃんって言うなら、嫌」
『なんそれ』
ケラケラ笑う私の隣で、としみつくんは襟元に口を埋めて微笑むだけだった。
【逆パワハラゆる旅】いつも頑張ってくれているカメラマンを旅行に連れて行って雇用主たちで労おう！【ならまち】→←・
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作者名：蚕虫 | 作成日時：2023年10月30日 21時
