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『ご馳走様でした。美味しかった！』
デザートまでしっかり堪能し、手を合わせる。としみつくんはそんな私を見て、微笑みを浮かべていた。
と「浅谷さんってホント、食べっぷりいいよね。アイドルなのに」
『え？アイドル関係あるの、それ(笑) 』
と「なんかほら、少食なイメージあるやん」
『んー……あ、お兄ちゃんがよく言ってたからかも』
と「え？」
聞き返されて、ハッとした。てっちゃん相手でもないのに、今、自然と兄の話が口をついて出ていた。
『あー……えっと、ほら。前話してた……もう死んじゃってるんだけど』
と「うん。聞きたい」
包み込まれるような温度に、ポツポツと言葉が飛び出てしまう。
『お兄ちゃんと私、13個離れてて……だから私が物心ついた時には、お兄ちゃんはもう働いてたの』
一番古い記憶でも、もう兄は水商売の人の服を着ていた。
『父親に全部渡したフリをして、私に必要な給食費とか洋服代とかをヒッソリ隠して。そんなことばっかりしてくれてた兄で』
強くて優しいお兄ちゃん。私の世界が歪まなかったのは、間違いなくお兄ちゃんのおかげだ。
『たまにボーナスが出たら、お兄ちゃんの働いてるとこの近くのお店で、お腹いっぱい食べさせてくれたんよね』
そう、その時に。自分は何も食べずに、頬杖をついて笑って言っていた。
『Aが美味しそうにたくさん食べてるのを見るのが、お兄ちゃんの一番の幸せだよって』
どれだけ歳を重ねても、兄のような人格に辿り着ける気がしない。
『自分は頼れる人も居なくて、ずっとお腹がすいた子供時代だったから、妹の私が口いっぱいに物を頬張ってるのを見ると、幸せな気持ちになるんだって』
ハッと顔を上げると、真面目な目をしたとしみつくんがそこに居た。
『ごめん、辛気臭い話で』
と「いや……めちゃくちゃいいお兄さんだね」
『そうなの！』
思わず大声で反応してしまって、慌てて口を押さえる。
『そうなんだよ……ホント、私とは似ても似つかん人で』
と「え？俺は、めちゃくちゃ浅谷さんに似てるなって思ったけど」
『どこが』
私には、自分がしんどい時に他人を慮るなんて出来るはずないのに。
としみつくんはキョトンと目を丸めた。
と「浅谷さんって、俺らが楽しそうにしてると、その分嬉しそうに笑ってんじゃん」
『うん。だってホントに幸せだし』
と「ほら、そういうとこ(笑) 全く一緒やん」
優しい微笑みに、私は戸惑いを隠せなかった。
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作者名：蚕虫 | 作成日時：2023年10月23日 10時
