・ ページ46
・
しばゆーに話したことに加えて、修さんの事情も話す。
あの父親の兄弟だから、きっと常識は通じないであろうこと。
何より、多分私があの父に瓜二つな顔を見れば、マトモな対応が出来なくなるであろうこと。
『だから……もし、私と居る時に修さんが寄って来たりしたら、凄くみっともない姿を見せることになると思う』
としみつくんは黙りっぱなしだ。コーヒーは微塵も減っていない。
『そうなったら、てっちゃんのこと呼んでもらえると助かる』
と「……それは、てつやなら上手く対応出来るから？」
『ん？うん……それもあるし、あと、てっちゃんは慣れてるから』
と「そっか」
やっとだ。としみつくんはコーヒーに口を付け、眉を顰めた。
と「俺、はさ」
『うん』
と「さっき、話があるって言われた時、やっと浅谷さんに頼ってもらえるのかなって思ったんだけど」
『え？』
想定外の会話に、脳が一瞬止まる。いったい何の話なんだろう。
と「俺、ずっとなんか……距離あるやん、浅谷さんと。いや、こういう呼び方してんのが悪いのかもしれんけどさ。でも、基本浅谷さんって何かあったらてつやかしばゆーに聞くやん」
『そうかな？』
と「うん。俺から何かしようかって聞いて、じゃあって頼まれることはあるけど。絶対自分からは言ってくれんやんね」
としみつくんはじっとハンドルを睨んでいる。意志の強そうな瞳は、何かを言いたげに細められていた。
と「俺、そんな頼りない？」
『え！？』
素っ頓狂な声にも何も言わず、彼は目を細めた。
と「俺の態度も……悪いのは分かってる。いつも緊張しちゃうし、多分マトモに会話出来てない時も多いと思うし。でも俺は、」
彼の言葉を待っていると、不意に目が合った。見開かれた瞳と、暫く見つめ合う。そして。
と「ごめん」
いきなり謝られた。
と「困らせたいとかじゃなくて、うん。ただ……いや、ごめん。しんどい人に言うことじゃなかった」
『あ、うん……？大丈夫』
扉に手をかけ、彼は独り言のように呟く。
と「距離置くとか、無いよ」
『え？』
と「いくら複雑な家庭でも。いくら迷惑かけられても。だってもう、5年も一緒に居るし。……だから、あんま謝んないで」
優しいはずなのに重いその言葉は、私の心に棘を刺した。
と「戻ろ」
『……うん』
咀嚼が難しいその棘は、なんだかずっと残りそうな予感がした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 105人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蚕虫 | 作成日時：2023年10月6日 3時
