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て「いや……無理でしょ。そもそも、かむ、俺と住める？」
『準備期間さえあればね』
て「人の出入り激しいし、生活リズム狂ってるよ？」
『そんなに嫌なら別々でもいいけど』
譲歩はしつつも、自然と頬が膨らむ。
楽しそうだと思ったんだけどな、てつやと同居とか。
て「なに不服そうにしてんの(笑) 」
ふは、と笑うてつやは、さっきまでとは別人みたいだ。
あれ、これもしかして、二枚目の壁もすり抜けられてるんじゃない？
『ねぇ』
て「なに」
私を眺めるてつやの目を見て確信した。
やっぱり、もう大丈夫だ。
なんのしがらみも気にしないてつやに戻っている。
『結婚する？』
て「…………」
パチパチと瞬きを繰り返し、彼は目を逸らした。
壁はなくなった。ただ、こっちに走ってくるのを恐れている……そんな表情だ。
それなら。
『間違えた』
て「え？」
『結婚しよう！』
こっちから歩み寄ってしまえばいい。
それも全速力で。
私は両手を広げ、てつやの胸に飛び込んだ。
て「危ないでしょーが」
そうは言いつつビクともしない胸元に身体を預け、思い切り背中に手を回す。
タバコの香りと薄まった香水と、そして服から立ち込めるてつやの匂い。
私からハグをするのは初めてだった。
『手、回してよ』
て「戻れんよ？」
『戻る気なんてないよ』
躊躇いの後、おずおずと私の背を熱く大きな掌が覆う。
やっとだ。
やっと、近くに来られた。
やっと、近寄らせてくれた。
『大好き！世界一好き！』
て「もう聞いたって」
『これから毎日でも言うから！』
顔を上げると、困り顔のてつやが私を見下ろしていた。
でも、決して嫌そうな困り顔じゃない。
照れと葛藤している、そんな表情だった。
て「素直すぎない？」
『でも、それでいいんでしょ？』
て「まあ、かむはそうじゃなきゃ」
頭を撫でられて、私の尻尾は嬉しさに震える。
『てつやもね、それくらい口下手なままでいいよ』
て「なにその言い方(笑) 」
『面倒臭いてつやのままでいいし、無理にカッコつけなくてもいいし』
て「いつの間に面倒臭い判定されてんの」
でも実際そうでしょ？
今でもまだ、これで良かったのかと瞳の奥に戸惑いが見える。
でもね、そのままでいい。
これから私が、そんな戸惑い吹き飛ばしてみせるから。
『素直バカのいい所はね、皆を、大切な人を、幸せに出来るとこなんだよ』
私の言葉に、てつやは笑顔で「知ってる」と呟いた。
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作者名：蚕虫 | 作成日時：2022年7月10日 4時
