Blume 4 (ページ16)

今日:37 hit、昨日:15 hit、合計:32,929 hit

・ページ16

・

部屋の中央には、真っ赤なドレスに身を包んだAが座っていた。

見た事のあるドレスのはずなのに。

ドレスというよりむしろ、ワンピースに近い服のはずなのに。

何故か無性に感動する。

その理由はきっと、隣にオレンジスーツの友人が照れくさそうに立っているから。

そして、化粧を施したその顔が、内側からキラキラと輝いているから。

り「A」

『なに？』

り「結婚おめでとう」

とうとうお目付け役も卒業だ。

俺が感極まっているのが珍しいのか、2人はニヤニヤと悪戯っ子のように笑った。

て「いい顔してますねぇ、りょうさん」

『泣く？』

り「泣かないよ、Aじゃないんだから」

揶揄われてようやく、早打ちする鼓動が収まってくる。

そしてそれと同時に、部屋にAの両親が居ないことに気がついた。

り「お父さんたちは？」

『もう庭行ってる』

り「え？！付き添いしてもらわなきゃじゃん」

走り出そうとした俺に、てつやの腕が伸びてきた。

て「ゆめまるから伝言」

り「はい？」

て「かむの両親には断り入れたから、りょうくんがAと入場してあげて」

『だってさ』

なんで？

きっと俺が目を白黒させていたからだろう。2人はまた、ニヤニヤと笑った。

て「だからあれじゃん？東海オンエア内での、父親役の交代的な？」

『今回は、東海オンエアとしての式なんだから』

り「ホントに言ってる？」

て「ホントに言ってる」

マジか、と頭を抱えてから、いくとがカメラを回していたことに気がついた。どうやら知らぬ間に軽いドッキリにかけられていたらしい。

り「分かった。行こ、A」

『うん』

何時までもウジウジしている訳にはいかない。あとも詰まってるんだし。そう覚悟を決めて小さな手を取り、ゆっくりと部屋から出る。

てつやは先に庭の中央にあるウッドデッキに歩いて行った。

司会者の華やかなアナウンスと、やんややんやの大騒ぎが聞こえる。

『りょう』

り「なに？」

『ありがとね。沢山』

優しい声色で、そんなことを言われてしまうともう感動の波を抑えきれない。

小さなこの手に何度も助けられたのは俺の方なのに。

どう返したものかと迷っているうちに、もう庭先まで来てしまった。

てつやの元へ、一歩一歩を踏みしめながら、｢結局これしかないかなぁ｣と自分に苦笑する。

り「A」

『ん？』

り「いってらっしゃい」

『……いってきます！』

小さな掌は、俺の元から旅立っていった。