酒場の店主は準備中 ページ30
両耳に輝くイヤリングが鏡に映るたびにやける口元を隠して、いつもと変わらない服を選ぶ。
ダウンタウンにおしゃれなんて概念はない。
春を売る女性たちならいざ知らず酒場を経営する俺とは全く縁のないものだ。
呼称こそ「デート」だがその実、知り合いとと初めて出かけるというだけのなんてことないイベントだ。
大して変わり映えしない普段着の中でも比較的新しいものを選ぶのはアップタウンに向かうため。
身綺麗で誇張凄まじい派手さを競うアップタウンの貴族共にはダウンタウンの服などボロキレほどの価値もないけれど無いよりはマシだ。
いや何を考えているんだ俺。
別に身だしなみを整えるぐらい経営者として接客業を生業とする者として当たり前のことだ。
なんてことない物事だ。
アルマの為なんて飾りのような言葉を付ける必要なんてない。
好意の一つも告げられない俺が誰かのためなど無様なだけだ。
「…シルバーアクセサリーとかいつぶりだァ？」
タンスに押し込んだままだったジュエリーボックスの中にゴテゴテの装飾が施されたものが目に入る。
アップタウンの貴族にとってはこれ一つで広大な領地が手に入るほどの価値があるものだ。
俺にとっては負債以外の何物でもなく、かといって捨てるわけにもいかない。
故郷で残った唯一の思い出だから。
この中に入っているのはシルバーアクセサリーの中でもよく見かけるブレスレッドだ。
とある紋様が刻まれたそれは誰の目に留まることもなく、日の目を浴びることなく再びしまい込まれる。
外へ出かけて買い物をして一日潰すだけの日に持っていく必要はない。
「っと、やっべ。」
時刻は午前七時過ぎ頃。
約束の時間は午前八時半頃ダウンタウンとアップタウンをつなぐエレベーター前。
酒場の二階に住居を構える俺にとってエレベーターまでの道のりが長い。
片道歩いて三十分はかかる。
さらにエレベーターの手続きと考えるともう家を出なければならない時間だ。
適当にひっつかんだシルバーアクセサリーのネックレスを首に引っ掛けて外へと出る。
いつも寝ぐせだらけで放置している黒髪へ数年ぶりに櫛を通した甲斐あってか今日はすっきりさわやかな気分だ。
耳たぶに感じるちょっとした圧迫感がイヤリングの存在を伝えてくる。
どうせ楽しみで夜も眠れないお子様アルマ君は寝不足気味にやってくるだろう。
これから訪れる一日の楽しみに自然と心が躍った。
全く、騎士様のエスコートとは贅沢だ。
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午睡(プロフ) - 空弥さん» ご感想ありがとうございます！早めの更新を心掛けて頑張ります！ (2019年2月26日 19時) (
レス) id: 3cc312a385 (このIDを非表示/違反報告)
午睡(プロフ) - ナッツさん» ご感想ありがとうございます！とっても励みになります…！ (2019年2月26日 19時) (レス) id: 3cc312a385 (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - 絡みがすごく可愛らしくて好みです……！作者様のペースで更新頑張ってください、応援してます (2019年2月24日 13時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
ナッツ(プロフ) - 好きです!!!最高です！続きめっちゃ気になります！更新楽しみにしてます!!!!!!! (2019年2月24日 3時) (レス) id: 7b2bfdb44e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：午睡 | 作成日時：2019年2月18日 19時
