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お姉さんがバックヤードに行って数分、男の人が出てきた。
「こんにちは、店長の片岡です」
「こ、こんにちは…すいません、突然…」
「いえいえ、登坂の事ですよね」
お姉さんがあらかた話してくれたようで、片岡さんは広臣の事を聞いたみたい。
「いましたよ、彼」
「えっ!ほ、ほんとですか!?」
広臣って…現実世界の人って事!?
「この美容室のエースとして、すごく頑張ってました」
「エース…」
広臣って、美容師さんだったんだ…
「…あの、広臣はいまどこに?」
そう聞くと、片岡さんの顔が曇る。
なんとなく…嫌な予感がした。
「…実は…彼…」
―――――
真っ白な空間。いつもと変わらない夢の中。
「今日は休めた?結衣」
変わらない…はずなのに、私なんで…
こんなに、緊張というか…鼓動が早いのかな…
「…結衣?どうかした?」
広臣はコテン、と首をかしげる。私は俯いて聞く。
「広臣……ほんとは……」
昼間、片岡さんは言った。
『彼、事故に遭ったみたいで………』
広臣は…事故に遭った…片岡さんは、事故に遭った後、広臣は救急車で運ばれて…それっきり、分からないって。
「…死んじゃって……るの…?」
そう言った途端、聞いてしまった後悔と、答えへの怖さで涙がこぼれた。
夢の中なのに、こんなに泣くなんて…
「…俺のこと、知っちゃったんだ…?」
「っ…ごめん…なさい……っ私…広臣の事…」
「…あは…どうなんだろう。俺もよく分かんない」
広臣は何故か微笑んで言う。
「俺、専門学校行っててね。卒業してから美容室に就職してさ」
―――――
あの日は、店が忙しくて…息つく暇もないくらいだった。
「ごめんな〜臣…」
俺の先輩、直人さんが車で送るよって言ってくれたんだけど
「俺の家、電車で三駅だから遠いっすよ?」
「なら駅まで送るよ」
「大丈夫大丈夫。お疲れっした!」
「あっ、臣!」
迷惑かけらんねぇよ。新米の俺を雇ってくれた直人さんに、これ以上…
でも、今なら分かる。送ってもらえば良かったって。
ほんの一瞬だった。
後ろから光が当てられて、なんだろう、って振り向いたとき
俺、すっげぇ痛かったんだよ。
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作者名:NightMare | 作成日時:2019年5月20日 22時