#07 ページ7
結衣さんに色々説明すると、やっぱり仕事の事を心配する。
結衣さんから謝られた時、僕も自分の不甲斐なさに頭を下げた。
辛いなら言ってよ、なんて言えない。僕が気付いてあげるべきなんだ。
「私が全部悪いんです」と言った結衣さんに、僕は僕自身に腹が立った。
職場の環境の改善…それも視野にいれないと。
結衣さんを送り届けた車の中で、ついハンドルを握る手が強くなった。
―――――
今市さんに送ってもらい、家についた頃には、頭の痛みより喉の腫れが気になるけど、かなり楽になった。
いつものように睡眠薬を手に取ると、そろそろまた通院しないとと思いつつ、水で錠剤を飲み込んだ。
「今日ね、職場で倒れちゃって…」
いつものように広臣に出来事を話すと、広臣は大丈夫?と聞いてくる。
「…結衣、頑張り屋さんだから、俺心配」
白い空間の中、前と同じ椅子の座り方をしている広臣は、そう言いながら目を細めた。
「…辛い?」
広臣は聞いてくる。私は素直に頷いた。
考えれば考えるほど、焦って追い詰められる。
「…おいで」
広臣は椅子の向きを変え、背もたれに背を預け、手を広げた。
初めて、広臣に抱き締められた。
夢の中だからか、ただ抱き締められた感触だけ。
温もりもなければ、香りもない。
でも妙に感触だけはリアルに伝わる。
要するに、変な感覚。でも嫌いじゃない。寧ろずっとこのままいたいくらい。
「…頑張らないで、結衣」
頑張れって言わずに、頑張らないでって言ってくれる広臣に、私は泣きそうになる。
「頑張らなくていい…休んで」
欲しい言葉を、ダイレクトに伝えてくれる。
それが夢の中という、儚くて不確かな物でも。
私にとっては、現実という辛い場所から逃げられる唯一の場所で、唯一の時間。
「…明日も、待ってるよ」
明日…そうだ、明日は休みを貰ったから…
「明日、一日中寝ていられるよ」
私がそう言うと、広臣の顔が曇る。
「…結衣…ここは夢の中なんだから…」
「でも…明日は安静にして寝てろって…」
「夢は夢。現実との線引きは無くしちゃいけない。夢の中が、現実になっちゃダメだよ」
なんだか意味深な言葉だったから、詳しく聞こうと思った。
けれど、切り忘れたアラームによって、現実へと戻される。
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作者名:NightMare | 作成日時:2019年5月20日 22時