シチュエイターズ vol.８

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2月。

今日はバレンタイン。
オンナノコ達が犇き合う週末の百貨店。
そんなんお構い無しに特設コーナーをすり抜ければ、足取り軽く屋上へ向かう。


あれから、リョウと少しだけ話をした。


『オレな、地元で小さい劇団やってん』
『一緒にいたのはその劇団の座長』

『アイツとは舞台の事でいっつも衝突してさ』
『さっきのケンカも配役の事で……見苦しいモン見してもうた』


『いや……』


『アノ人双子やねん』
『弟の方がワルさばっかりしとうから、いつも兄貴が尻拭いしてんのな』

『マルが聞いた「リョウ」は同じ劇団員のヤツで』
『オレらの知らんトコでまたワルさしてたんやな』

『ってか、名前一緒やからオレも勘違いされてるやん？ははっ』


『…………』


双子の件は納得したけど。


『でもリョウ、泣いてたやん？』
『アレって……』


暫く来ない時期があって、あんな事があって。
やっと姿見た思うたら、痩せこけて泣いてて。

アノ時やって、僕むっちゃ心配したのに。
リョウは当時を思い出し、またフフッと笑う。


『アレな、デカい劇団でオーディションする事になっとって』
『そこクリアしたら夢に近付けるって、自分追い込んで稽古に没頭してん』

『ま、結果アカンかったけど』


『…………』


あんなヤツの為に流した涙と違う事はわかって安堵したけど、夢から遠退いたリョウのキモチ考えたら言葉が見つからへん。
今もきっと強がってんやろな思うてたら、再びリョウの口が開く。


『さすがにヘコんだけど』
『今はもうそれだけや無い、ってわかったからなぁ』


『ん？』


『時間あればココに来て、子供笑かしてるタヌキ眺めてたら』
『デカい劇団入って主役張るだけが人生ちゃうよなぁ、とか思うた』


『ココ来る度に着ぐるみから元気貰えて』
『ヘコんだ時にタヌキが頭撫でて励ましてくれて』

『あぁ……ささやかな幸せも悪く無いな、とか』
『マル、あんがとな』


『そ、そんっ……！』
『全然っ！僕なんかもう全っ然やって！』


両手ブンブン振って否定したら、リョウはクスクス笑って辺りを見渡す。


『てかさぁ、マル』
『着ぐるみって喋ったらアカンのちゃうん？』


『あっ！』


僕とした事が。
つい夢中になって、自分がタヌキであるのすっかり忘れてた。

今まで忠実に守って来た事やのに。
いざリョウと話せるようになったら、こんな簡単に破ってまうなんて。


結局、帰りにリーダーから軽く注意受けた程度で。
クビはどうにか免れたけどさ。

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