シチュエイターズ vol.６

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「…………」


「…………」


目を開けるタイミングを完全に逃してもうて。
寝たフリをする僕と、何してんのかわからへんヤスとの沈黙は暫く続いた。


「はは、コノ本懐かし」


本棚から何か取ってパラパラと捲る音がしたら、合間でクスクスと笑うヤスの独り言が聞こえた。

僕の好きなヤスの声。
コノ声を独り占めできてる思うたらめっちゃ心地良う感じて、ヤスに見えない程度に頭の角度変え僕も顔を綻ばせる。


「さて、と」


パタンと本を閉じる音がしたら、それから突然ヤスの気配を感じなくなった。


あれ……帰った、かな？
でも部屋のドアが開く音は聞こえへんかったのに。

確認しようと不自然な寝返り打った途端。
頭にフワリと乗った手の感触。

ヤスの……手？
何が起こってんのかわからなくて、混乱して。
吐き出そうとした息を思わず飲んだ。

頭ゆるゆると撫でられて。
時折顔に当たる風が、ヤスの吐息が当たって弾けてんのがわかって。
寝てるフリしてんのに、みるみる顔が熱くなってまう。


「無理したらアカンのわかっとうけど」

「でもマルが学校来てくれへんと……オレ……」


……ヤス？


少し掠れた、寂しげな声が部屋の中で響いた後。


……っ。


前髪を手櫛で掻き上げられ、オデコに温かい感触が乗って息が止まった。


ヤスが……キスしてる。

僕のオデコに……ヤスの唇が……。


最後ちゅ、と音立てたら、もう一度髪を撫でられてヤスは静かに離れていった。


「スンマセン」
「ボク、やっぱ帰ります」

「隆平くんにヨロシク伝えといて下さい」


「あら、まぁ」
「ゆっくりして行けばいいのに」


丁度飲みモン持って来たオカンと言葉交わしたら、ガサガサと荷物持って階段を駆け下りる音がした。


どうしよ、目が開かへん。
……いや、目を開けたら今の幸せが壊れてまいそうで開きたない。

なんで？
なんでヤスは僕に……キス、した？

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