曖昧であまい 2【ブルーロック】

月夜【ミヒャエル・カイザー】 ページ5

「月が綺麗だな」

突然の台詞に戸惑って目を見開くと、彼は「いつも以上に変な顔してどうした」とこちらを見た。

ああ、そっか。カイザーは知らないか。

あと、彼がしれっと失礼なことを抜かしたことに気づいて蹴りを入れるが、簡単に止められてしまう。


「日本では月が綺麗っていうのはIloyeyouって意味なんだよ」

「日本人は回りくどいのが好きだな」

彼は呆れたように言う。

上を見上げると確かに大きい丸い月が浮かんでいる。

「返事がオッケーなら、死んでもいいわ、って返すのが定番なんだよ」

面白いでしょ、と彼の顔を覗き込んで言うと、「物騒だな」とつまらなさそうに言った。

私は結構好きなんだけどな。これを考えた夏目漱石はカイザーとは気が合わないらしい。

空から視線を落とし、隣の彼の顔を見る。
月明かりに照らされた薔薇が彼の首元に妖艶に咲いている。

視線に気づいた彼が薄く笑って、顔を近づけてきた。耳に唇が触れるくらいの距離。
私は驚いて思わず固まる。

「I love you」

耳にかかる息がくすぐったい。彼の顔を見ると意地悪く口角を上げている。

ああ、こういう人だったな。
私もふっと微笑み返し、彼の頬に手を添えた。

「死んでもいいわ」

それを聞いて彼は私の首を躊躇なく片手で掴む。

「お前が望むなら、俺が殺してやる」


ククッと意地悪に笑う彼の手にはさほど力が入っていない。

私は少し背伸びをして彼の首に両手を伸ばし返す。彼の長い指と違って、私の小さい手は両手じゃないと彼の動脈までは掴めない。


思い付いて、思わずフッと笑ってしまった。

「手が届かないね」


彼はまた怪訝そうに眉を顰めて手を離した。
この言葉の意味を彼は知らないから。


※「月が綺麗ですね」の返事の一つに「手が届かないから綺麗なんです」というのがあり、「どんなにあなたが頑張っても私の心を手に入れることができない」という告白を断る意味です。

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