近づく【絵心甚八】 ページ33
モニター室の椅子に座る彼に忍び寄り、ふわりと後ろから抱きついた。
「Aか。帰れ」
彼は振り返らなくても私と分かったようだ。そりゃそうか。彼にこんな態度を取るのは私しかいない。
「つれないですねー」
私は彼の肩に顎を乗せて、不満気に口を尖らせる。
彼はこちらを見向きもせず、モニターで今日の試合の映像を見ている。
「何か用か？」
「用が無きゃ会いに来たら駄目なんですか？」
彼はようやくこちらを見た。
モニターの光に照らされて眼鏡の奥の隈がいっそう目立つ。
「暇じゃないんだ。帰れ。ファックオフ」
「また寝れないんですよ。構ってください」
頑なに言い切れば、彼は私を帰すのを諦め、手元にあったブランケットを私に手渡して羽織るように促した。
私はそれを肩に掛け、キャスター付きの椅子を彼の横に持ってきて座った。
みんなが寝静まった頃、私は時々こうして彼のいるモニター室に来る。
本当に寝付けないのが半分、彼と話したいのが半分だ。
黙々と映像をチェックし、パソコンを打って分析を続ける彼の横顔を眺める。
「ここって‥」と聞けば「こんなことも分からないのか、まるで脳のない鷹だな」と言いながらも丁寧に教えてくれる。
「コイツのいるところが偶然フリーだったわけじゃない。ここのスペースが空くように相手を誘導して上手く動かしているんだ」
「あー、なるほど」
私は戦略を立てるのも戦況を読むのもあまり上手くない。
だからか、一見無茶苦茶に見えて合理的な彼の理論を聞くのがすごく好きだ。
それに2人で話すときは、みんなの前でモニターから指示を出すときよりも幾らか物腰が柔らかく感じる。
それが心を許してるということならいいな、と勝手に思っているが、大人の彼からしたら高校生なんてクソガキで、実際は子守のような感覚かもしれない。
「寝るならさっさと部屋に戻れ。ここで寝るな」
「ん、‥はい」
いつのまにか微睡んでいたようで、彼の声で起こされた。私は目を擦りながらふらふらと立ち上がり、彼の肩にそっと触れた。
「絵心さんの隣だと眠くなるんですよ。なんか安心して」
「なんだそれは。‥いいからさっさと戻って寝ろ」
少しだけ、彼の目元が嬉しそうに、ふっと和らいだ気がした。
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雨海(プロフ) - ひよさん» 読んでくれてありがとうございます！！気に入っていただけて嬉しい(〃ω〃)最近更新サボり気味だったのですが頑張れそうです(*´꒳`*) (2023年2月20日 13時) (
レス) @page23 id: d5df2c0ba3 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - はじめまして、コメント失礼致します。タイトルにホイホイされまして読ませて頂きましたら……私の……私の理想の夢世界が広がっておりましたありがとうございます(泣) お話のトーンもめちゃくちゃ好みです！またの更新を楽しみにお待ちしております…！ (2023年2月20日 9時) (レス) @page45 id: 03402cf4a3 (このIDを非表示/違反報告)
雨海(プロフ) - jやよさん» ありがとうございます！尊いなんてそんな…(〃ω〃)氷織くんいいですよね！綺麗かわいいし、関西弁がたまらん(*´-`) (2023年2月3日 0時) (レス) id: d5df2c0ba3 (このIDを非表示/違反報告)
jやよ - ぜ、全部尊いだと、、、主さんは神か？ 特に氷織君が好きなのこういう短編集にあることも感激です！これからも主さんの好きなペースでいいので更新頑張ってください！ (2023年2月2日 22時) (レス) id: 7c8c23da7c (このIDを非表示/違反報告)
雨海(プロフ) - ななノさん» ありがとうございます(*´꒳`*)そんなに褒めていただいて光栄です！夢主のあざと可愛いを意識してるので伝わってて嬉しいです笑モチベがめちゃ上がりました笑 (2023年1月29日 3時) (レス) id: d5df2c0ba3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雨海 | 作成日時：2023年1月10日 18時
